It always seems impossible until it’s done.
OpenAP がJIC 設立、「 XPm 」とは何か

OpenAP がJIC 設立、「 XPm 」とは何か

OpenAP はテレビ広告の未来形か?

テレビ広告における喫緊の課題といえる「統合されたクロススクリーン視聴測定」では、測定事業者が担う役割はとても重要になってきています。テレビ視聴のリニアTVとストリーミング以外にも、デスクトップ(PC)とモバイル(スマホなど)のデジタル領域も加えた、4スクリーンすべてにおける重複排除された視聴測定が、今後の標準となっていくことは疑いの余地もありません。しかし、現在も熱い議論が引き続きなされている米テレビ視聴測定*1においては、最も成長しているストリーミング視聴に関する基準、つまり視聴測定の定義が、まだきちんと定まっていないという課題を持っています。まだそこなの?と思われるかも知れませんが、現実はそうなのです。そんな中、「 OpenAP 」は新たな動きを始めました。ストリーミングにおけるプレミアムコンテンツ通貨に焦点を当てた、米国初の「業界合同委員会」JIC2を2023年1月に立ち上げたのです。

*1 個人視聴率 からの考察(後編)〜測定の自立〜(2022.6.23投稿)
*2 JIC:Joint Industry Committee

OpenAP
OpenAP Logo

まず、OpenAP を簡単にご紹介しておきますと、 OpenAP はテレビ広告取引の「オーディエンスベースのキャンペーン」にシンプルさと規模(スケール)をもたらすために誕生したオープンなプラットフォームですが、いわゆる広告会社の形態をした非公開企業でもあります。普段はライバル関係にある、大手のテレビパブリッシャーFoxNBCUniversal、Paramount、そしてWarner Brothers Discoveryが共同して2017年に立ち上げました。現時点でWalt Disneyは未参加ですが、2022年10月には「OpenAP Data Hub」として OpenAP にクラウドデータプラットフォームを提供するSnowflake社も、非テレビパブリッシャーとして初めて出資者に加わっています。

この OpenAP の「 OpenID 」を利用することにより、これまでリニアTVにおいて主流だった総視聴率(GRP)によるパブリッシャー毎の個別取引から、あらゆるプレミアム・テレビパブリッシャーやプラットフォームでシームレスに同一IDでキャンペーンのターゲティングと測定を行うことが可能となり、広告主はオーディエンスがいつ、どこで、どのように視聴しているかを把握できるようになります。

OpenAP
JIC:Joint Industry Committee

OpenAP は元々、ターゲティングなどの機能が進んでいるデジタル広告に対抗する形で、リニアTVにおけるオーディエンスデータの活用をパブリッシャーを横断して推し進めるためにスタートしましたが、今回のJICではそのリニアTVは対象とせず、ストリーミング視聴のみにフォーカスしています。JICの立ち上げは、ストリーミング視聴の測定基準を設定し、サードパーティとなる測定事業者による視聴データ収集、分析およびレポートなどを管理(監査)することにより、未だ定義や指標(通貨)が統一されていないクロススクリーン視聴測定の確立を2024年のアップフロントまでに間に合わせるように、スピードアップを図ることが目的です。
*毎年春先に行われる米国のテレビCMの先行買い期間(9月〜翌5月までのCM枠取引)

JIC には、OpenAP に出資参加する4つのテレビパブリッシャーと、メキシコ系アメリカ人向けのTelevisaUnivisionが新たに、また米テレビ業界団体のVABも発足メンバーに加わっていますが、 OpenAP に未参加のWalt Disneyを含むNetflixやAmazonなどもサーバーデータに無料で相互接続ができるようにしており、参加を推奨しています。
*Video Advertising Bureau(米テレビ業界団体)

ちなみに下図は、直近(2022年11月)の米国のテレビ視聴時間のシェアとなっています。2022年7月からはストリーミング視聴が最大シェアとなっています。OpenAP が独自にストリーミングの視聴測定への取り組みを急ぐのも致し方ないことです。

Nielsen’s November 2022 TV usage summary from The Gauge

ただ、米国でのメディア視聴測定の基準設定や監査といえば、MRCが既に存在しています。JIC は、それに代わるモノとなることまでは考えておらず、あくまでもMRCの補完的な位置づけであるとしています。しかし、JIC の動きの方がMRCより進捗が早いのではないか?とも一部では予想されています。(私見ですが、2021年のニールセンのMRC認定一時停止事件では、VABとMRCの間には何らかの遺恨が残ることとなり、それも今回のJICの立ち上げには影響があったのではないか?と想像しています)
*Media Rating Council(米メディア測定評議会)

 

JICの発足リリース(2023.1.9)によると、次のような説明がなされています。(抜粋)

 OpenAp は、2024 年のアップフロントに先立って、新しいクロスプラットフォーム測定ソリューションの適合性を確認する測定認証基準の構築を中心に、多通貨(マルチカレンシー)を利用可能にする新しいJICの設立を発表しました。

 JICはすでに、測定認証基準の策定に着手しており、2023年3月1日に正式発表する予定です。4月25日にはJICとしてイベントを開催し、多通貨の将来に向けた測定パートナーの進捗状況も初公開する予定です。また、広告会社や業界団体にも積極的な参加を募り、多通貨の未来を推進します。

 2023年1月より、ローンチパートナーとともに、JICは測定イノベーションを加速させるために、主要なデータイニシアチブに資金を提供します。新たに発足したJICは以下を行います。

 

  1. VABと連携し、2024年アップフロントまでに、クロスプラットフォームのプレミアムビデオの通貨サービスを行う第三者測定事業者のために、JIC内に測定認証基準を確立し、維持する。
  2. OpenAP のインフラを利用したストリーミング視聴データの整合性を図り、第三者測定事業者の測定を可能にするプログラマー用データセットを作成する。
  3. 測定の自立性・中立性を保つため、ストリーミング視聴データセットの正確性を検証する第三者監査法人を設置する。
  4. VAB や ANA*1、また 4A’s*2、IAB*3、ARF*4 などの主要な業界団体と連携し、測定のキャリブレーション(補正)の進捗を加速させる。

 プレミアムビデオ広告モデルのサステナビリティは、透明性があり、自立性が高く、包括的で、プレミアムビデオのコンテンツ視聴のすべての方法(マルチスクリーン、接続、デバイス)を正確に反映する測定のエコシステムに依存します。

 このJICを設立することで、我々は協力し合い、より多くの競争、包括性、革新を促進し、最終的に広告主、広告会社、消費者に、より良いサービスを提供する新しい「多通貨の未来」の実現を加速させることができます。

Source:openap.tv
*1 ANA:Association of National Advertisers(全米広告主協会)
*2 4A’s:American Association of Advertising Agencies(米国広告業協会)
*3 IAB:Interactive Advertising Bureau(インタラクティブ広告協会)
*4 ARF:Advertising Research Foundation(米国広告調査財団)

その OpenAP ですが、2021年12月には「 XPm 」という測定ソリューションを発表しています。そこから少し時間は経っていますが、日本国内では取り上げられることがまだ少ないので、ブログ後半は XPm についてご紹介します。

 

テレビに変革の波、「 代替通貨 」の必要性

 

「 XPm 」とは

OpenAP 」 の「 OpenID 」を利用したクロスプラットフォーム測定フレームワークである「 XPm 」。新しい単語が3つも重なってくるとなかなかややこしいですので、その関係性を簡便に整理をしておきますと(少々ざっくりですが)、

  • OpenAP :プラットフォーム
  • OpenID :相互接続のキー
  • XPm :ソリューション

ということになります。そして、ソリューション「XPm」とは何か?については、VABのXPmリリースページにあるFAQ資料がとてもわかりやすかったので、そちらからご紹介することにします。

 

XPm powered by OpenID
TV’s Cross-Platform Measurement Framework

XPm は OpenAP の OpenID を採用したTVクロスプラットフォーム測定フレームワーク

XPm powered by OpenID

XPm は、キャンペーン出稿データのプライバシー保護された環境下での共有を促進し、自立した測定事業者が、独自に重複排除されたクロスパブリッシャーおよびクロスプラットフォームのリーチとフリークエンシーを含む主要な測定基準を提供することを可能にする。VABの測定タスクフォースは、測定事業者がXPm レポートを作成するためにテレビパブリッシャーデータをどのように使用するかの基準を作成し、管理を確立する予定である。

XPm とは何か?

XPm は、全米のテレビパブリッシャーが支援する新しいクロスプラットフォームの測定フレームワークで、オープンな測定エコシステムを可能にし、広告主により多くの測定ソリューションの選択肢を提供する。OpenID を利用することで、プライバシーセーフな環境でありながら、キャンペーン出稿データの共有を促進し、測定事業者がクロスプラットフォーム測定を行うために必要なデータを提供することを支援する。また、「ターゲティング」と「測定」の両方で統一されたオーディエンスを使用することが可能となる。さらに、OpenID を使用してキャンペーンを実行した広告主には「OpenAP XPmレポート」を提供する。このXPmレポートには、重複排除されたユニークなクロスプラットフォームでのリーチ、合計インプレッション数、リーチした OpenID ごとの平均フリークエンシーなどのベンチマーク指標も含まれている。

なぜ、OpenAP とVABがテレビパブリッシャーに代わってXPmを立ち上げるのか?

OpenAP の目標は、業界をリニアとストリーミングの視聴率のサイロ化された測定から、プラットフォーム間でのIDベースのターゲティングと測定に移行させることである。2020年初頭から開発を進めてきた XPm は、リニアとデジタルの両方の視聴環境で実施されるキャンペーンについて、より実用的なインサイトを求める市場の需要に積極的に応えるための共通のソリューションを提供する。XPm は、全米広告主協会(ANA)がマーケターのためにクロススクリーン・メディア測定フレームワークへの進化を呼びかけたことに対する、テレビパブリッシャーとしての集合的な回答である。

XPm レポートが広告主向けに提供されるのはいつか?

2020年初頭から開発中である XPm は、測定事業者、データプロバイダー、パブリッシャーシステムとの必要な接続を確立するための大規模な開発段階を経て、2021年の晩夏にベータ版に入った。OpenAP は、2022年第1四半期のXPmレポート開始を目標に、XPm レポートのベータ期間を継続し、データのレビュー、テスト結果、パブリッシャーと広告主の両方からのさらなる情報収集のために、すべての関係者と協力する予定である。

XPm レポーティングに参加する測定会社は?

参加するXPm 測定事業者は、ComscoreiSpot.tvNielsen605VideoAmpである。Innovidは、XPm レポートに使用するためのデジタル測定を提供する。

新しいXPm レポートでは、どのような測定基準が提供されるのか?

広告主には、OpenID を使用して実行されたすべてのキャンペーンについて、デフォルトで到達した OpenID ごとの重複しないユニークなクロスプラットフォームリーチ、合計インプレッション数、および平均フリークエンシーが提供される。

参加しているテレビパブリッシャーは?

キャンペーンがクロスパブリッシャーおよびクロスプラットフォームのいずれの場合でも、全米テレビパブリッシャーのキャンペーン活動を XPm レポートに含めることができる。ただし、現時点ではキャンペーンごとに認証が必要なパブリッシャーもある。

どのように機能するのか?
OpenAP+VAB「XPm FAQ」

広告主が持つオーディエンスデータは OpenID にマッチングされ、キャンペーンの開始時に XPm 測定事業者を選択する。そして、それらオーディエンスデータは、テレビパブリッシャーの実施部門に渡され、クロスプラットフォームでのプランが作成される。キャンペーン終了後、配信ログを測定事業者と共有し、重複排除されたキャンペーンの出稿ファイルを作成。測定事業者はデータを調整し、OpenAP に測定値を返す。OpenAP はすべての入力を集約し、可能な場合にはインサイトも追加して、XPmレポートを広告主に提供する。

このフレームワークの目的は何か?

その目的は、テレビパブリッシャーが新しいバイサイドの要求を実現するためのスケーラブルな方法を提供するクロスプラットフォームフレームワークを積極的に設計し、ネットワーク間でのプロダクトとエンジニアリング・ニーズの増加を合理化することである。同時にデータ管理を改善し、プライバシー保護された環境でデータ漏洩を減らし、テレビネットワークのエコシステム内に資金が留まるようにすることが目標である。

OpenAP とVABは、それぞれどのような役割を果たすのか?

OpenAPは、キャンペーンのための統一オーディエンスを構築し、OpenID を通じてリニアおよびデジタルの出稿データを統合し、XPm の集計レポートを提供する予定である。VABはその新しい測定イノベーション・タスクフォースの一部として、XPmの管理団体として共通の基準を作成し、テレビパブリッシャーに代わってデータの使用方法に関するコントロールを確立するために運営される。

測定会社に対するVABの要件は何か?

タスクフォースによって要件が定義され、すべてのソリューションは、方法の透明性と OpenID との技術的統合を確保するために、VABによる確認と検証を受けることになる。要件は現在設計段階だが、確定次第、すべての参加者と共有する予定。

XPm レポートを受け取るまでのスケジュールは?

XPm レポートを受け取るまでの所要時間は、選択した測定事業者によって大きく左右される。測定事業者は各社のテクノロジーと、キャンペーンの実施期間をカバーするために必要な、視聴データに基づくリニア出稿の独自の評価やプロセスを持っているからである。

XPmは代替通貨を作ることを目的としているのか?

現時点では、XPm は広告主に対してクロスプラットフォーム、マルチパブリッシャーのキャンペーンに関する貴重なインサイトを提供することに重点を置いている。測定事業者は、基礎となるリニア通貨と同じ事業者である必要はなく、どの通貨で保証を行うかを決定するのはテレビパブリッシャーに任されている。

測定事業者とはどのようなデータを共有するのか?また方法は?

測定事業者はキャンペーン出稿データを取得し、OpenID と直接統合することでプライバシー保護された環境で共有される。

測定事業者は、基礎となるリニア通貨と同じ事業者である必要があるか?

ない。

特定の案件でどの測定ソリューションを使用するのかは、誰が選択するのか?

バイヤーが、キャンペーンに参加する測定事業者のうち、どの事業者を利用するかを選択することができる。

特定の案件でどのリニア通貨を使用するかは誰が決定するのか?

バイヤーが、パブリッシャーによってサポートされている通貨のうち、どの通貨を取引に使用するかを決定する。

 

Source:thevab.com

 

以上、今回のXPmのご紹介は、2021年12月9日の正式ローンチ時に公開された OpenAP + VABの「XPm FAQ」からの要約となりましたが、2022年以降の進捗状況や事例などもいくつか情報が公開され始めています。また機会があれば、そちらもご紹介をしていきます。

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda | 楳田良輝