今、「測定」が熱い。
前回の「個人視聴率からの考察(前編)〜コア視聴率〜」から少し時間が経ってしまいました。後編では、新しいテレビ評価の新指標となれるような考え方を目指して整理したいのですが、なかなか難しい課題だなとあらためて感じています。そんな中、前回の投稿とちょうど同じくらいのタイミング(2022年2月)に、米国では以下のような「Look Book*」が公開されました。
*Look Bookとは、アパレル業界などではよく使用する言葉のようです。商品の詳細説明までは記載しないが、写真などで構成される最新コレクションのカタログのような意味合いだとか。米国のテレビ業界では常用語なのか、SNSなどに端を発する流行り言葉なのかはわかりませんが、一旦「概略書」程度の意味合いと解釈しました。でも、それもあまりピンと来ないので、そのまま「ルックブック」とカタカナで表記します。
NBCUniversal / NBCユニバーサル
Measurement Framework / 測定フレームワーク
Look Book V1 / ルックブック 其の壱

NBCユニバーサル(正式名称:NBCUniversal Media, LLC 以下、NBCU)は、言わずと知れた米国の4大ネットワークのひとつNBC(その他はABC、CBS、FOX)を運営するメディア・エンターテインメントグループです。現在はケーブルテレビ・情報通信の最大手であるコムキャスト(正式名称: Comcast Corporation)が100%親会社となっています。そのNBCUから、米国のテレビ業界で今もっとも熱い議題とされている「測定」に関するひとつの指針が公開されました。ご存知の方も多いと思いますが、2021年9月に、米国テレビビジネスの基準通貨と言われていたNielsenがMRC*から認定を停止され、それに代わる指標が今後どうなるのか?が昨年からの大きな話題のひとつでした。これまでも「新指標の必要性」の議論は、毎年、季節の風物詩のように(アップフロントのある4-5月頃に)湧き出てきていましたが、今年こそは本腰なのではないかと注目を浴びています。
* MRC: Media Rating Council
細かなことですが、日本語においては「測定」と「計測」は異なる意味で使用されます。測定は重さや量、速度といったものを装置などを使い、ある単位を基準として数値化することを意味し、計測は同様に重さや量や速度などをはかりますが、それだけではなく、それを基になんらかの判断を下すという意味も加わるようです。英語の「mesurement」にその両方の意味合いが含まれているのかは定かでないですが、今回のブログでは一旦全て「測定」に統一して表記します。
国内でも視聴データにもっと注目を

各メディアのアクチャル測定、特にテレビCMを中心としたキャンペーンなどの測定や視聴データの進化は、プログラマティカも長く追いかけてきていたテーマです。もう6〜7年程前にはなりますが、国内でもテレビ視聴データを提供する事業社がいくつか登場してきた際には、横並び評価というよりも、とにかく各所でのご説明や解説用に(テレビ視聴データというものを特に広告主のみなさんに知ってもらうために)「一覧」に整理してみたことがありました。もちろん、NBCUのように関係各社にRFP(Request for Proposal / 提案依頼書)を送って回答してもらうなんてことはできませんでしたので、ほぼほぼ公開データなどを地道に集めて独自に整理したモノでしたが...。
少し懐かしい感じですが、今回初めてブログで公開します。ただ、この一覧の情報自体はかなり古くなっていますので、当時どんな事業社があって、どこが何をしていたか?を示すことがここでの本意ではありません。また、テレビ視聴データが諸々進化してきた現状で、要らぬ誤解を招く内容となってもいけませんので表側以外の詳細はマスキングしておきます。いずれにしても、当時5社の情報を集めるだけでもかなりの時間を要しましたし、想像以上に大変な作業だったなと記憶しています。それだけに、今回のNBCUの公開資料は私にとっては大変興味深く、関係各位にとっても非常に価値のあるものだと思えてなりません。
とにかく今回、NBCUのルックブックを読んで感服しました。う〜ん、ここまでやらなばいかんのだな、と。しかも、これでもまだスタートラインとのこと。そんなNBCUの「測定フレームワーク・ルックブック」(勝手に概略書と解釈)の、さらに"概略”をご紹介します。
このルックブック其の壱は、116頁で構成されています。
イントロダクション
- メディアや広告業界が直面する課題で「測定」よりも重要なものはない
- 価値をどこにおき、どのように取引し、成果を評価することで、何が成功かを定義することが信頼の基盤であり、パートナーシップの基本である
- しかし消費者行動は大きく変化し、テクノロジーの進化でメディアのエコシステムも拡大した結果、視聴者反応や投資効率に至るまで測定の領域は大きな遅れをとった
- 業界の将来に向かっては、消費者変化のスピードに追いつき、効果をいかに正しく把握できるかが成功の鍵となる。では、どうすればいいのか
- 目指すべきは「測定の自立」で、従来の考え方や基準にとらわれないもの
- いくつもの測定システムが相互接続することで、高い精度で全体を把握でき、常に新しい課題に向き合い、消費者変化や行動に適応していけるものとなる
- それにより、革新的でありながらも、偏りのない測定ソリューション市場が将来的に形成されていく
そのために、NBCUは利用可能な測定ソリューションの可能性を拡げるべく調査・評価に着手した。
- まず現状把握のために各社にRFPを送付し、自社能力と最新基準を共有するように呼びかけた
- 「透明性」を旗印に、調査で発見したことは共有し、全ての関係者が「測定の未来」に対して発言ができるようにもした
- その結果、120社以上から回答と提案があった
- 各社の貴重な共有情報は、6ヶ月間の精査と検証から主要なソリューションカテゴリーを網羅できる「測定フレームワーク・ルックブック」となった
- 今後、数ヶ月の時間をかけて、各カテゴリーに特化した内容も加える予定である
- そこには、ソリューション評価基準や比較など、各社のハイレベルな概要が記載されるだろう
- 自社や業界全体にとって「最も重要なことは何か」を考えてみて欲しい
Kelly Abcarian
NBCUniversal, EVP Measurement & Impact
第1章:オーディエンス測定について
- 長い間、ひとつの通貨がTVエコシステムを支配してきた(代わるモノがなかった)
- 数十年、毎年何十億ドルもの取引に使われた通貨が今、変わろうとしている
- 問題は、どのような基準に代わっていくかである
- 必要なのは、まず「オーディエンス測定」であり、これはブランド、メディア、業界団体としての総意である。そして緊急性もより高いといえる
- 測定の変革は、オーディエンス測定から始まり、エンゲージメントやエクスペリエンスへとつながっていくことになる
- 基準(指標)の再定義に向けて、8つの測定事業社(通貨候補)を検証・評価する
- そこでは、次の重要となる3つの問い(キーワード)が存在する
①アイデンティティ(同一性)
- 測定の未来は「同一性」の基盤の上に成り立ち、最適化への鍵となる
- 各社は、どのような同一性フレームワークを使用するのか、相互接続するのか
- 何十億ドルもかけた既存IDの価値は、この相互接続性に依存することになる
- 新ソリューションも、既存のモノに接続できなければ、後退する危険性がある
- 同一性は、それ自体がひとつの能力であり、測定事業社に対しては相互接続性を有すること推奨する
- それにより、例えばストリーミング視聴者と、ブランドやメディアの1stパーティ・データが同一性を持てるようになるだろう
- ブランドにとって価値があるのは、相互接続可能なパートナーシップに積極的な測定事業社であり、より高い効率性で無駄を省き、最終的な投資収益率を実証できるかである
②カウンティング(計数)
- 簡単そうに見えたが、重要な問題であることがわかった
- 実際に何をカウントしているかが、各社で微妙に異なることがある
- この小さな違いは、最終的に大きな差を生むことになる
- NielsenからTvisionに至るまで、パネルベースによる測定というのは標準的なものである
- そのような測定事業社がこれまで通り高い信頼度を維持しながら、より深く分析をするためには、何十万、何百万ものパネルを用意する必要がある
- それは現実的なのか。それはブランドにとって良い結果をもたらすのだろうか
- IDや1stパーティ・データに基づけば、世帯やデバイスレベルでもカウントは容易である
- 当面は人ベースのパネルでの正確なカウントは困難であろう
- したがって、カウンティングには再考と注意が必要である
③クオリティ(品質)
- テレビに関しては、質を考慮しない「正確な量」はありえないだろう
- これまでテレビのオーディエンス測定は、プレミアムコンテンツを評価するための、ある意味、別な通貨として使用されてきた
- しかし、新たな測定へ移行した際に「品質」を蔑ろにする危険性もはらんでいる
- 単に量を見るのではなく、コンテンツの質をどう説明するのかは重要である
- コンテンツの差別化よりも、最小公倍数的な基準が優先されてきた現状に危惧する
- 測定事業社によってインプレッションの定義が異なることがある
- 時間のような質の指標がなく、量だけで測ることには問題がある
- インプレッションを正確に測ることは出発点ではあるが、例えば、1秒間、6秒間、あるいは1分間なのかのような時間による違いも大きい
- それらは最終的に、コンテンツの持つ影響力を測定することに役立つだろう
測定事業社評価のための定義
- アイデンティティ(同一性)、カウンティング(計数)、クオリティ(品質)を念頭において、測定カテゴリー事業社を評価する
- 業界初となる米国での「クロスプラットフォーム測定事業社の評価」のために検討すべき項目は、データソース、広告の識別、アイデンティティ、手法、レポート、配信スピードなど多岐にわたる。
- そこで、分析・評価を進めやすくするために3つの領域に分類して「価値変数」と定義する
-
ソリューションの完成度
-
提供する能力
-
クロスプラットフォーム通貨への対応
この3つの価値変数(軸)で、オーディエンス測定カテゴリーの8事業社を比較して、ひとつにまとめたのが次のグラフである。
オーディエンス測定カテゴリーの事業社比較
(605, Comscore, iSpot.tv, Nielsen, Oracle, Samba, TVSquared, VideoAmp)

また、これらの価値変数からは、さらに「25項目の属性(価値要素)」を見つけることができ、各社がクロスプラットフォーム測定を進める準備ができているのかを判断することに役立てられる。
評価のための価値変数と「25属性」
ソリューションの完成度
価値要素①:11属性
- リニアTV視聴ソース
- デジタル視聴ソース
- 広告露出ソース
- コンバージョン(成果)ソース
- 個人パネル
- 総人数推計
- 方法論/重み付け
- 代表性
- インプレッションの定義
- 重複排除
- 同一性
提供する能力
価値要素②:10属性
- インベントリ測定
- 未計測のインベントリ
- 対象地域
- 総世帯推計
- 個人測定
- デモグラフィック・レポート粒度
- 共視聴
- デバイス別の視聴環境
- アドバンスド・オーディエンス
- スピード
クロスプラットフォーム通貨への対応
価値要素③:4属性
- 市場参入期間、企業規模、所有者状況
- 顧客基盤/収入源
- MRC認定
- その他のサービス
各社へのRFP(質問概略)
最終セクションでは、オーディエンス測定カテゴリーの8事業社の個別回答が紹介されています。各クロスプラットフォーム測定事業社の現況が、ここまで一同に公開された例はなかったのではないでしょうか。これも今回の透明性を意識した、関係各社の協力姿勢によるもでしょうし、やはり「測定」が大きな課題となっていることがわかります。以下、各社へのRFP(質問概略)の項目をご紹介します。

- 会社概要
- 提供する測定内容(5項目)
- 全世帯推計(全米)(3項目)
- アイデンティティ・ソリューション(同一性)(4項目)
- レポート内容について(19項目) *質問例を一部掲載
- その他の注目すべき事項(5項目
- MRCの認定状況(1項目)

iSpot.tvの個別回答例

ルックブック(8社個別回答サマリー)

各社からの個別回答(詳細情報)を整理したまさに「ルックブック」は25属性分ありますので(全8頁)、この部分だけでもかなり読み応えがある量になっています。私はドカっと機械翻訳に掛けて(少し調整もしながら)読み進んでみましたが、各社のスタンス、状況差が備にわかる内容となっています。全てを読了するのも大変ですので、従来の基準通貨だった「Nielsen」と、NBCUが今回選択した代替通貨「iSpot.tv」(全国/全米対象)だけを比較しながら読んでみるのも良いでしょう。
なお、今回の出典・参照元であるNBCユニバーサルの「測定フレームワーク・ルックブック」の原本は下記からご覧いただけます。
Source: NBCUniversal「Measurement Framework Look Book V1」Feb 1, 2022
さて、日本でもテレビの評価指標が世帯視聴率から個人視聴率となったことで、少しずつ変化が見え始めてきています。屋根カウント(世帯)だけの時代から、人ベースで因数分解できるようになったことは、指標としての価値が一段と高まります。

しかし、米国のように元々(かなり以前から)、指標は個人で(個人レベルの測定を提供してない事業社もあるが)、率でなく実数で捉えてきたマーケットでは、リニアTVを含め、スマートTVやSTB(セットトップボックス)などの世帯ベースのビッグデータを個人データで補正して推量したり、その他の家庭内の複数デバイスやOOH(看板でなくモニターやビジョン)も評価軸に加えたりして、それら全てを重複排除しながらいかに正しく評価するか、というところにすでに力点が向いています。試しに「iSpot.tv」の個別回答を参考にして図解してみようとしましたが、たくさんあり過ぎて途中までで描ききれなくなりました。米国Nielsenの「MRCから認定停止問題」「OOHのデータが取れてないよ問題」も、こちらから見ると進んでいるな〜、でも対岸の火事だと思っている場合じゃないよ、と痛感してなりません。
国内のテレビ周辺の話だけで言えば、地上波とTVerを含むCTVの統合測定はどうなっているんだっけ?とか、タイムシフト視聴率は同一パネルで7日間でまとめるよりも、スマートTVの予約数と再生数を繋いで見た方がもっとコンテンツ価値を評価しやすいのでは?とか、視聴状況もエリア別にもっと差がありそうだよね、小さいエリアや特定セグメント層の視聴状況なども最小公倍数的に削られて、ちゃんとカウントできてないのでは?とか、いろいろ考えることはありそうです。OOH(DOOH)の視聴測定もまだあまり進んでないかも...。あ、そもそも地上波テレビの「CM視聴率」でさえ、まだ標準化してないじゃん...などなど。やはり、「せっかくの個人視聴率データ」をもう一度まるっと丸めてコア視聴率で評価をしたり、いつまもでも大都市圏だけを起点に物事を考えるとか、いつまでもデモグラで一律に評価したりとか、、そういうことに危惧を持ちたいと考えます。もちろん、米国とは環境の違うこともありますから、「照猫画虎」とはならず、本質を見極めていけるようにしながらです。
ルックブックのご紹介で多くの文字量をとってしまったため、今回の「個人視聴率 からの考察(後編)」は、ここで終了といたします。「新しいテレビ評価の新指標となれるような考え方」については、今回のNBCUの指針、その他の米国での動きも十分に参考としながら、「アフターストーリー編」、あるいは別タイトルにて再度整理を考えていきます。
今回のNBCUの「ルックブック」(個別回答&サマリー)部分の翻訳資料*(PDF8頁)にご興味ある方は、「お問い合わせ」よりご希望のご連絡をいただければデータで差し上げます。(個人・自社利用のみ/転売不可)
*情報量が多いため機械翻訳をしたものを日々調整中しています。お問い合わせの時期により翻訳バージョンが異なることがありますので、ご了承ください。
本稿は適宜見直し(加筆・修正)を行いますので、以前の情報から更新されている場合があります。
最終更新日:2022年6月27日
Programatica Inc.
Yoshiteru Umeda | 楳田良輝