It always seems impossible until it’s done.
FAST を知る②〜 主なFASTサービスの状況

FAST を知る②〜 主なFASTサービスの状況

今回ご紹介している「FAST を知る〜 広告付き無料ストリーミングTV とは」は、追加更新をしているうちに文字量がかなり多くなってきましたので、前半と後半に分割することにしました。以下は、後半部分のご紹介です。

主な FAST サービス

*重要な部分のため「前半」から再掲

pluto tv

Pluto TV

  • 2013年8月 ロサンゼルスで設立
  • 2014年3月 ベータ版を立ち上げサービス開始
  • 2019年1月 Viacomが3億4,000万ドル(約375億円)で買収発表
  • 2020年10月 新たに設立されたViacomCBS Streaming(現Paramount Streaming)の一部門となる
  • 18カテゴリー/約350チャンネル
  • MAUは約7,900万人
    *Paramount Global傘下。旧ViacomCBSから2022年2月に社名変更。ViacomCBSは2006年に一度分社したViacomとCBSが2019年12月に再統合した
tubi

Tubi

  • 2014年4月 サンフランシスコで設立
  • 2020年3月 Fox Corporationが4億4,000万ドル(約485億円)で買収
  • 2020年10月「News On Tubi」でライブストリーミング・チャンネルを追加(FASTを開始)
  • 世界250プロバイダーから約40,000コンテンツ
  • 約210チャンネル
  • MAUは約6,400万人
  • スーパーボウルLVII(2023)でのCMが話題となる> 参考動画
  • 2023年3月 視聴測定などでVideoAmp、LiveRamp、Comscoreの3社と提携
roku

The Roku Channel

  • Roku Inc.が運営するストリーミングサービスで2017年9月に開始
  • RokuはAnthony Wood氏の「6番目」となる事業会社で、元々はLLC(有限責任会社)として2002年10月にサンノゼで設立
  • テレビ端末でストリーミングサービスを視聴できるデジタルデバイスの草分け的存在
  • 2007年当時、Netflixの副社長も務めていたWood氏は、Netflixから約600万ドルの出資を受けRoku Inc.として再スタート
  • CTVデバイス開発はNetflixと共同で進めていたが、Netflixが独自のデバイスを持たないことを経営決定したため(他サービスとの競合回避)、Roku Inc.はNetflix傘下から分離独立化され、2008年5月に最初の「Rokuデバイス」を単独発売
  • 2017年9月にNASDAQ公開企業となる(コード:ROKU)
  • CTVデバイスの製造販売(近年はドングルが主流)、アプリ提供に加え、広告事業なども行っている
  • 約340チャンネル

参考:2023年1月のCES2023*1でRokuブランドのスマートTVを2ラインナップ発表(CTVデバイスからテレビ端末へ組み込む潮流対策*2
*1 CTA(全米民生技術協会)が主催する世界最大のテクノロジー見本市
*2 CTVデバイスでの視聴測定の精度面に問題がある。競合社のテレビ端末市場の参入などにも対抗している

freevee

Amazon  Freevee

  • Amazon1990年からあった映画やテレビなどのデータベースサービスIMDbをもとにして2019年1月にIMDb Freediveとしてサービス開始
    *IMDbは1998年にAmazonが完全子会社化
  • 2019年6月 IMDb TVへブランド変更
  • 2020年後半よりオリジナルコンテンツ制作も開始
  • 2022年4月「Amazon  Freevee」に再リブランド
  • 約130チャンネル
  • FreeveeのコンテンツはPrime Videoのユーザーにシームレスに表示されるが、Prime Videoユーザー以外でも利用可能
  • New Fronts 2023でAmazonは、Prime VideoのオリジナルコンテンツをFreeveeに広告付きで登場させることを発表
    *プレミアム動画コンテンツの先行販売イベント(リニアTVの「アップフロント」のデジタル版)

参考:2021年10月にAmazonブランドとして初のスマートTV「Amazon Fire TV Omni Series」発売(Rokuに先行して発売)

peacock

Peacock

  • 2020年7月 米4大テレビネットワークのひとつであるNBCを運営するComcast傘下のNBCUによってサービス開始
  • NBCのロゴマークにちなんで「孔雀」(Peacock)と命名された
  • 無料広告付き、プレミアム、プレミアムプラスの3階層でサービスが構成される
  • 有料会員数は約2,000万人
  • 約50チャンネル

参考:2019年5月にNBCUが33%保有していた「Hulu」の支配権を放棄したことで、Huluは実質Walt Disneyの完全子会社となり、NBCUのコンテンツは各社との契約切れを待ってPeacockへ移行することになった
*株式譲渡は2024年1月以降にWalt Disneyに対して実施されることが決定している

vudu

Vudu Fandango

  • 2004年からVuduBoxとしてVC援助などを受け開発
  • 2009年高解像度でダウンロード可能な初のサービスを開始
  • 2010年2月 Walmartに買収される(買収金額約1億ドルといわれる)
  • 2020年4月 映画チケット販売サービスなどを行うFandango Mediaが買収(金額非公開)
  • Fandango Mediaは NBCUが75%、WBDが25%を保有する
  • 登録者数6,000万人以上
  • 24,000タイトルと8,000のテレビ番組
xumo play

Xumo Play

  • 前身となるXumoは2011年にViant TechnologyとPanasonicの合弁会社として設立
  • 2020年2月 Comcastが両社から買収(金額非公開)
  • 2022年4月 ComcastはCharter CommunicationsとのJVに出資、同年11月にJV部分をXumoに、ストリーミングサービスは「Xumo Play」としてリブランド
  • 約300チャンネル
sling free stream

Sling Freestream

  • Dish Networkの完全子会社であるSling TV LCCが運営
  • Dish Networkは大手衛星放送プロバイダーで、その親会社であるDISH Network CorporationはNASDAQ公開企業(コード:DISH)、S&P500構成銘柄
  • 2015年2月 有料ストリーミングサービス「Sling TV」を正式サービス開始
  • 2023年2月 無料視聴の「Sling Free」を「Sling Freestream」にリブランドしてサービス強化
  • 約210チャンネル/41,000タイトル以上に
vizio watch free

WatchFree+

  • VIZIOのSmartCastプラットホームで、Pluto TVを利用した無料ストリーミングサービス「WatchFree」を2018年8月に開始
  • VIZIOは2002年設立ニューヨーク証券取引所(NYSE)公開企業(コード:VZIO)
  • テレビセットや音響システムの製造販売以外にもテレビ視聴データや広告事業など行っている
  • 2021年8月「WatchFree+」にリブランド、12月にAVODを追加するサービス拡張
  • WatchFree+はログインおよびサブスク契約なしで利用可能
  • 約260チャンネル、6,000以上の映画&テレビ番組(ニュース、スポーツ、音楽など)
plex

Plex

  • 2009年12月 Plex Inc.として設立(創業は2008年)
  • 2020年からFASTサービス開始
  • 完全無料で世界中で利用可能(日本語対応あり)
  • 個人で作成したライブラリーを友人などと共有できる
  • グローバルユーザーは2,500万人以上
  • 約310チャンネル(ライブTVチャンネル)
  • 50,000タイトル以上(オンデマンド)

 

FAST に関する簡易アンケート&集計結果

FAST の状況

FASTプロバイダーの状況

まず、 FAST を提供するプロバイダー数の推移です。すでに20以上のプロバイダーが存在しています。多くの事業者が、FAST は参入障壁があまり高くなく、大きなビジネスチャンスと捉えているようです。

その理由のひとつに、サービス開始に伴うスタートアップ費用にコンテンツ確保以外の大きな投資を必要としないことがあげられます。そして、そのコンテンツ確保においても、これまでケーブルテレビや衛星、通信会社などの有料プラットフォームのビジネスモデルの基本であった高額な「キャリッジフィー」(配信料)が存在しないことがほとんどのようです。あくまでもテレビネットワークやパブリッシャーなどのコンテンツ提供者と「広告収入」をシェアすることで FASTサービスが成立します。以下は2021年までの推移グラフです。また、技術面での難しさもあまりないようですが、一旦それはおいておきましょう。
*Carriage fees:アフィリエイト料とも呼ばれ、有料テレビサービスのプロバイダーからテレビ局などに加入者数ベースで支払われる。一説には総額で毎年数億ドル~数十億ドル(数百億~数千億円)ともいわれ、テレビ局などの大きな収益源となっている。

しかし、FASTプロバイダーの急激な増加により、優良なコンテンツ確保の競争が激しくなってきています。当初は、配信先(視聴者)を持っているプロバイダー側が優勢でしたが、FASTサービスが急増する中、条件交渉などのパワーバランスがコンテンツ提供側へ徐々に移っているようです。

FAST provider
Source:VIP+ Analysis

 

VIP+のFASTレポート「Life In The FAST Lane v3」の中では、 FAST およびAVODサービスは次の4階層に整理されています。
*2022年7月発行の第3弾(v1は2020年7月、v2は2021年10月、最新のv4は2022年12月発行)

  1. マーケットリーダー(Market Leaders)
  2. 新興プロバイダー群(On The Cusp)
  3. テレビハードメーカー発(TV-set Services)
  4. ニッチ&ローカルグループ(Niche Audiences)
FAST & AVOD
Source:VIP+「Life In The FAST Lane v3」(Jul. 2022)

 

FASTプロバイダーのチャンネル数

次に、各FASTプロバイダーが取りまとめるチャンネル数です(2023年1月時点)。FASTチャンネル数は必ずしも常時増加し続けている訳ではなく、前述のテレビネットワークやパブリッシャーとの契約問題など、様々な理由で増減が見受けられます。他方、後発の2021年からサービスを開始したAllen Media Groupの「Local Nowは全米の225を超える市場にローカライズされたニュース、天気、スポーツ、交通、およびエンターテイメントなどのコンテンツを数多く提供しており注目度も高く、最大数のFASTチャンネルを保有しています。2023年1月にもNBC Newsの3チャンネル追加する発表を行っています。
*前述の分類ではLocal Nowは「ニッチ&ローカルグループ」

number of FAST
Source:fastmaster.substack.com(by Gavin Bridge/VIP+)

 

local now
ニッチ&ローカルグループで注目される「Local Now」Source:localnow.com

 

2022年10月までの約3年間のFASTプロバイダー別チャンネル数を月次推移でチャート化したものです。Local Nowのチャンネル数の急増には目を見張るものがありますが、「テレビハードメーカー発」のLG Channels+と「ニッチ&ローカルグループ」のSTIRRは、直近でチャンネル数を減らしていることがわかります。

FAST channel
Source:fastmaster.substack.com(by Gavin Bridge/VIP+)

 

FASTのカテゴリーとチャンネル

FASTプロバイダーは、それぞれに映画やドラマ、音楽、ニュース(全米&ローカル)、キッズ向けなどいくつかのカテゴリーのチャンネルを保有しています。個々のコンテンツはもちろんのこと、「カテゴリー」や「チャンネル」は、その FASTサービスを魅力づける(特徴づける)要素のひとつになっています。少し古いまとめ資料ですが、以下は各FASTプロバイダーのチャンネルカテゴリーがわかる一覧です。

FAST service
Source:VAP+「Life In The FAST Lane v2」(Oct. 2021)
FAST service 2
Source:VAP+「Life In The FAST Lane v2」(Oct. 2021)

 

FASTチャンネルの差別化

新たなFASTチャンネルの立ち上げには、当初150〜200時間分のコンテンツ、かつ毎月10〜20%程度の入れ替えが必要だといわれています。4〜6時間のプレイリストを作り、それを繰り返し流し続けるという(昔ながらの)方法はあまり好まれていません。まさにリニアTV(従来のテレビ放送)のように1日中楽しめるコンテンツ構成が求められます。

daimon

また、FASTサービスの急激な増加で、ある意味「FAST飽和状態」となり、早くもコモディティ化の懸念から特徴あるテーマでキュレーションされたチャンネルを立ち上げたり、「シングルシリーズ・チャンネル」と呼ばれる単一タイトルのシリーズを目玉チャンネルとしたりすることは、FASTのEPG(電子番組表)をスクロールする際などに興味あるテーマや見慣れた作品ロゴが視聴者の目にとまりやすく、他のFASTと差別化できる重要な要素となってきています。
*仮に国内作品で例えると「西部警察チャンネル」とか「水戸黄門チャンネル」のようなこと。「あぶ刑事」は計76話(テレビシリーズのみ)のため、ひとつのチャンネルとなるにはコンテンツ数(時間)が足りず、「北の国から」のような時間軸が大切な連続ドラマもリニアのシングルチャンネルにはやや不向き

FAST channel
Source:VIP+ Analysis (Sep. 2022)

 

FASTプロバイダーの実例

では、FASTプロバイダーは実際にどのような「カテゴリー」や「チャンネル」を持っているのでしょうか? 参考例として、FASTの先駆者的存在であるPluto TVが展開する18カテゴリー/約350チャンネルの最新一覧を以下にご紹介します。(2023年5月現在)
Source:www.paramountpressexpress.com/pluto-tv/

Pluto TVのチャンネルカテゴリー

1. MOVIES2. ENTERTAINMENT3. NEWS + OPINION
4. CRIME5. REALITY6. GAME SHOWS
7. DAYTIME TV8. COMEDY9. CLASSIC TV
10. HOME11. FOOD12. LIFESTYLE + CULTURE
13. SPORTS14. GAMING + ANIME15. MUSIC
16. EN ESPAÑOL17. KIDS18. LOCAL NEWS
Pluto TVのチャンネル一覧
Channel Lineup page 1 of 3
Pluto TV channel
Source:Pluto TV Channel Guide by Paramount Press Express

Channel Lineup page 2 of 3

Pluto TV channel 2
Source:Pluto TV Channel Guide by Paramount Press Express

Channel Lineup page 3 of 3

Pluto TV channel 3
Source:Pluto TV Channel Guide by Paramount Press Express

 

FASTの利用状況

2019年にXperi Inc.と合併したTiVoの「Q2 2022 Video Trends Report」(2022年10月発行)では、ビジネスモデル別の利用状況が2021年Q4と2022年Q2で比較されています。Pay TV(38%→35%)だけでなく、SVODも減少傾向にあり(31%→27%)、FAST/AVODが伸長(10%→22%)していることが確認できます。また、FAST/AVODを利用する理由については「無料である」が69.3%と2021年Q4から継続して高い数値となっています。

TiVo, Q2 2022 Video Trends Report
Source:TiVo, Q2 2022 Video Trends Report
TiVo, Q2 2022 Video Trends Report
Source:TiVo, Q2 2022 Video Trends Report

 

TiVoの「Q4 2022 Video Trends Report」(2023年2月発行)から、SVODの解約状況とその理由です。このレポートではNetflixを解約している割合が高いと報告されています。また、その理由には「料金値上げ」と回答している人がトップとなっています。(Netflixは2022年1月に北米で11%程度の値上げを発表。投資家はそれを好意的に受けとめ株価は一時的に上昇したが、その後大きく下落している)

TiVo, Q4 2022 Video Trends Report
Source:TiVo, Q4 2022 Video Trends Report

 

nasdaq.com 「Netflix(NFLX)
Source:nasdaq.com 「Netflix(NFLX) 株価推移」

 

別のコネクテッドTVの利用状況に関する調査結果です。TVision Insightsが2023年2月に発表したレポート「The State of CTV Advertising」においても、2022年下期の利用時間はFASTとAVOD/広告ありSVODが48%に急進(2020年下期より+55%)、逆に広告なしSVODは26%に止まる結果(同△30%)となっています。
*NetflixとDisney+の広告付きSVOD(Hybrid SVOD)は2022年下期開始のため、このチャートでは全てSVODに含んでいる

TVision Insights「The State of CTV Advertising」
Source:TVision Insights「The State of CTV Advertising」

 

同じくTVision Insightsのレポートではストリーミングアプリ別の世帯リーチの状況を公表しています。この2年間で見られたアプリ利用の急増はようやく落ち着いた状況になってきましたが、NetflixやHuluのような世帯リーチがこれまで高かったSVODアプリはこの半年(2022年上期/下期の比較)で減少しています。一方、RokuやTubiなどのFASTアプリは増加傾向を示しています。

TVision Insights「The State of CTV Advertising」
Source:TVision Insights「The State of CTV Advertising」

 

FASTとAVODだけの利用状況の調査結果です。FAST/AVOD視聴者がどのサービスを利用しているかを調査しています(複数回答可)。The Roku Channelを筆頭に、Tubi、Peacock、Pluto TVの「マーケットリーダー」群が高い利用率となっています。

TiVo, Q2 2022 Video Trends Report
Source:TiVo, Q2 2022 Video Trends Report

 

FAST市場の状況

FASTのグローバル市場予測を英 Infoma plc傘下であるOmdiaが2023年1月に発表しています。予測では「2027年までにFASTチャンネルのグローバル収益は120億ドル(約1兆6,000億円)に到達する見込みである」(米国のみで100億ドル超)としています。先行している米国のシェアは85%程度まで低下しますが、次いで国別では英国、カナダ、オーストラリアの英語圏とドイツ、またメキシコ、ブラジルなどの市場も拡大すると予想されています。
*ロンドン証券取引所(LSE)の公開企業(コード:INF)

Omdia「FAST channel revenues to reach $12bn in 2027」
Source:Omdia「FAST channel revenues to reach $12bn in 2027」

 

Omdia「Blue Ant International’s 2023 “Understanding FAST”」
Source:Omdia「Blue Ant International’s 2023 “Understanding FAST”」

 

では、米国のテレビ広告市場だけで見るとどうでしょうか。TVREVの2023年1月発表の最新レポートでは以下のような予測がなされています。まず、この予測の前提として2022年のテレビ広告費と内訳は次の通りです。

  • テレビ広告費は全体で約880億ドル(約12兆円/以下省略)
  • リニアが約690億ドル(78%)、ストリーミング190億ドル(22%)
  • リニアのうち490億ドルが全米(71%)、200億ドルがローカル市場(29%)
  • またケーブルテレビ460億ドル(67%)、ブロードキャスト230億ドル(MVPD/vMVPD含み33%)
  • ストリーミングはFASTが104億ドル(55%)、広告付きSVODが86億ドル(45%)
    *Multichannel Video Programming Distributor(従来の有料ケーブルテレビ)/ Virtual Multichannel Video Programming Distributor(インターネットを利用した有料テレビ)

2023年〜2027年までのテレビ広告費予測と内訳では、2023年に急変はせず(ただしFASTは+53%)、2024年から大きな変化が起き始めます(ケーブルテレビとブロードキャストが大幅減)。2025年にはストリーミング(FASTと広告付きSVOD)が約580億ドルと、ケーブルテレビの約250億ドルとブロードキャスト約150億ドルの合計400億ドルを大きく上回ると予測されています。さらに2027年にはテレビ広告費全体が1,000億ドルに達し、その約7割がストリーミングになるとされています。
*2024年は大統領選挙があるためにテレビ広告費全体として変化の傾向がより顕著に出ると考えられる

この5年間でケーブルテレビはブロードキャストよりも大きな減少を強いられ、もし予測通りとなれば、テレビネットワークも一部報道のようにプライタイム番組を減らして、よりストリーミングに力を入れようとすることが考えられます。ただ、それはFCC(連邦通信委員会)の監視もあり一朝一夕には行かないかも知れませんが、2023年以降「FASTは新たなケーブルテレビ」(代替)と考える広告主らによって、テレビ広告予算が徐々にストリーミング(特にFAST)へ移っていくことになるだろうというのが大筋の読みとなっています。
FCC(Federal Communications Commission)米国電気通信事業はFCC管轄下におかれている。「1934年通信法」に基づき設置された合議制の独立規制委員会。(ちなみに日本の電気通信事業は総務省管轄)

2027年までのテレビ広告費予測と内訳

TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)
TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)
TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)
TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)

 

次に、FASTとSVODだけを比較したグラフです。上記と細かい数字が合わないのは(不思議ですけど)ご愛嬌としてご覧ください。利用者数増は頭を打ち、すでに契約数は減少傾向にあるといわれるSVODですが、NetflixやDisney+が広告付きSVODに参入したこともありテレビ広告費としては増加予測です。しかし、FASTの伸びはそれをさらに大きく上回る予測がなされています。

オリジナル番組や特別なチャンネルなど(そこでしか観られないコンテンツ)を持たないケーブルテレビからストリーミングへの視聴者流出はすでに起き始めていますが、広告なしSVOD(ad-free)から広告付きSVOD(ad-supported)への参入だけでなく、広告なしSVODからFASTへの進出(オリジナルコンテンツの提供など)の動きも増えてくるだろうと考えられます。実際に、AmazonはPrime Videoのオリジナル作品を「Freevee」に登場させることを2023 NewFrontsで発表しています。
*オリジナル作品への初の広告掲載を2023年5月1日に発表。また、翌週5月8日にはAmazon以外のプラットフォームに初めてオリジナル作品を供給することも発表。

2027までののFASTと広告付きSVODの広告費比較

TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)
TVREV:FASTs Are The New Cable, Part2:Advertising(Jan. 2023)

 

多くの方が一番馴染み深いであろう Nielsen「Gauge」から2023年3月分のデータです。Nielsen Gaugeはテレビ利用時間をプラットフォーム別に月次集計し、米国では2021年5月からレポートを公開しています。Nielsenは2023年2月にそのGaugeをアップデイト(修正)しました。MVPD/vMVPDアプリの重複カウントを是正するために集計方法が変更されています。

Gaugeにおいて、ストリーミングが利用時間でトップとなったのは、修正前のレポートでは2022年7月とされていましたが、修正後では2022年11月からとなっています。ただし注意が必要なのは、ストリーミングがケーブルテレビとブロードキャストの合計を上回ったとしばし誤解されることがありますがそうではありません。いずれにせよ、修正に関する是非などもさておき、ここまでご紹介してきましたFASTを提供するプロバイダーが、2022年後半からはGaugeにも登場するようになっています。 Gaugeではストリーミングサービスはシェアが1.0%を超えると「Other Streaming」から個別のロゴ付きに変わりますが、現在はPeacock、Tubi、Pluto TVの3つが掲載されています。

* Pluto TV は修正前データで2022年9月に1.0%を超え、FASTでは最初に登場しており引き続き個別掲載されている

米国のテレビ利用時間シェア(2023年3月)*男女2歳以上

Nielsen 「Gauge」
Source:Nielsen 「Gauge」(2023年4月発表)

 

米国のテレビ利用時間シェア推移 *2023年2月修正後

Nielsen 「Gauge」
Source:Nielsen 「Gauge」(2023年4月発表)

 

FASTを含むテレビ視聴測定

最後に FAST が抱える課題です。まずもっとも重要なことは「基準化」だとされています。FASTを基準化するために必要なことはいくつか考えられますが、テレビ広告取引全体として喫緊の課題である「視聴測定」がそのひとつです。2021年9月に起きた Nielsenの「MRC認定」一時停止事件に端を発する米国での「視聴測定の変革の波」は、19ヶ月後の2023年4月にMRCがNielsenを再認定したことでは決着せず、やや泥沼化していっているようにさえ思えます。FASTだけでなく、ストリーミングにおける視聴測定の基準化は早急に必要となっています。
*2023年4月17日、MRC(Media Rating Council/米メディア測定評議会)はNielsenの全米テレビ視聴率測定の認定を復活させることを発表。ただし、今回の再認定はあくまでも従来のパネルベースの視聴率調査に対するもので、ローカル市場のテレビ視聴測定サービスやデジタル統合視聴率(DAR)、2023年1月にローンチしたばかりの「Nielsen ONE Ads」などは含まれない。

大手テレビネットワークが2017年に共同で設立した OpenAP は、米テレビ業界団体のVABも参加して、業界合同委員会「JIC」を2023年1月に創設し、ストリーミング視聴の測定基準策定のための「基本要件」を同年4月に発表しました。しかし、ビッグデータ活用をこれからの視聴測定の中心に据えようとするJICに対し、歴史と実績もあり、これまで多くの検証・精査を重ねてきているパネル調査が持つ精度の重要性を主張する(堅持する)Nielsenは、JICのプロジェクトへの協力(参加)を拒否しました。また、ここまで新基準を作ろうとする側にいたはずのComscoreはその立場を翻したかのようなニュースもありました。
* Video Advertising Bureau

ビッグデータなのか?パネルなのか? また、その両方(ビッグデータ+パネル)なのか? 今後の激しい視聴測定の議論とテストの末の「新たな取引基準の確立」は、おそらくこれまで通りの単一通貨とはならず(マルチカレンシー)、また視聴率を中心としてきた従来の指標とも異なるモノ(インプレッション取引)となるでしょう。そして、それがFASTも含む米国のテレビ広告取引全体に大きな影響を与えるであろうことは、我が小国から遠巻きに見ていても想像に難しくはありません。
*単位はCPM(1,000インプレッションあたりの広告単価)、あるいはTCPM(ターゲットオーディエンス1,000人への広告表示単価)

 

もっと、FASTを知る

さて、今回の投稿では「FAST とは? FAST サービスにはどのようなモノがあるのか?」などについてご紹介してきました。しかし、FASTが持つ今後の可能性(国内を含む)や、さらなる課題などを考えてみるにあたって、FAST成長の背景やそのエコシステム、またFASTの根幹ともいえる「広告」についても、もう少し詳しく調べていますと見えてきたことがいくつかあります。

例えば、メディア企業系FASTの優位点には、親会社の豊富なコンテンツライブラリーから独占的な配信を行えること以外に、単一のデバイスに縛られることなく、さまざまなプラットフォームやデバイスにアプリを提供することで、より幅広い視聴者にリーチできることがあります。しかし、それぞれが別々の測定システムを有することも多く、iSpot.tvVideoAmpのようなサードパーティのクロスプラットフォーム視聴測定が機能しない場合には、その測定に一貫性を持たせることが難しくなります。逆にOEM系FASTでは、基本は単独デバイスに集約されるため視聴者数は限られてきますが(とはいえ、かなりの規模まで増えている)、独自のACRデータも保有していることで、リニアとストリーミングの両方を通して精度の高い視聴測定が可能となり、データ活用への期待値が高くなってきます。
*2022-23アップフロントでNBCUがNielsenの代替通貨に認定した視聴測定事業者

Telly
Photo credit:Telly / News Source:AdAge (May 15, 2023)

また、OEM系FASTの親会社となるスマートTVやコネクテッドTVデバイスのメーカーなどは、元々はテレビ広告ビジネスの外側にいたプレーヤーですが、ストリーミング・エコシステムの中での新たなゲートキーパー「インターフェース・プロバイダー」として重要な役割を持つようになってきています。

インターフェース・プロバイダーは、視聴者との最初のコンタクトポイントを持てるため、FASTサービスが成功するためには避けては通れない存在です。そこに「広告収入」という新たな収入源が生まれたことでデバイス価格を引き下げることもできるようになり、今後さらにシェア競争が激しくなっていくことが予想されます。そしてコネクテッドTVデバイスは、そのシェア拡大の目的以外にも、視聴測定の精度面で外付け(ドングル)からテレビ端末に内蔵される方向へ徐々に進んでおり、AmazonやRokuは独自のスマートTVなどをすでに発表しています。

Pluto TVの共同創業者であるIlya Pozin氏は(FASTの成功からヒントを得て?)、完全に広告モデルでスマートTV(テレビ端末)を無償化するベンチャー企業「Telly」を、プログラマティック広告会社のMNTNなど複数の支援を受け新たに立ち上げました。市場価格で1,000ドル(約135,000円)相当のTelly独自OSを搭載する55インチ4Kディスプレイの無償配布受付を2023年5月から開始しています。
*初期受付ロットは50万台で最終的には数百万台の無償配布を計画

いずれにせよ、広告モデルに100%に支えられているFASTでは(ビジネスの根幹)、ある程度の量のCM枠を束ねた「バンドル」のような直販広告セールスを除くと、多くは各種データなどに基づくプログラマティックな広告取引に委ねられることになります。特に近年注目が高まっている「リテールメディア」の持つリアルな購買データは今後のFASTの進化には欠かせなくなってくることでしょう。(リテールメディアの「オフサイト領域」)

ただ、それ自体はデジタル広告に慣れた広告主にとっては大きな問題ではありませんが、従来のリニアTVのように事前に決まった時間、選んだ番組だけでCMが流される訳ではないので、広告取引の現場で混乱が生じることも少なくないようです。例えば広告主は「リニアTVを買うと、どこで広告が流れたかよくわかるが、誰が見たかわからない。しかしコネクテッドTVを買うと、その逆で、誰が広告を見たのかはよくわかるが、どこで見たのかがわからない・・」というような悩みを持つことになります。その原因のひとつとして、コネクテッドTVのコンテンツの多くは「完全なメタデータ」を持っておらず、またメタデータの付与ルール(分類法)も事業者によって異なっていることが課題として出てきています。それを解決するために IRIS_IDのようなユニバーサルコンテンツIDも新たに注目されています。
*IRIS.TVが提供するソリューション。2013年に創業し、パブリッシャー、DSP/SSPなど多くのパートナー企業と連携

 

◇  ◇  ◇

 

これら広告編を含む「もっと、FASTを知る」についても、機会があればプログラBLOGなどでまたご紹介できればと考えていますが、最後の最後に、2022年初頃のFASTの全米業界地図をインフォグラフィックスで示したEvan Shapiro氏の「A MAP OF THE FAST UNIVERSE」を以下にご紹介して、今回は一旦終了といたします。私自身、この業界地図を最初に見た時はすぐには全体を理解できなかったため、みなさんにもFASTのことを少し知っていただいた後の方がわかりやすいだろうと、文末にご紹介することとしました。各数値などは日々変化していますので必要に応じて最新データもご確認ください。この「FASTを知る」と併せ、読了いただいた方の何かのご参考になれば幸いです。
*エミー賞なども受賞したTVプロデューサー、ニューヨーク大ビジネススクール教授、Media Universe Cartographer(メディア業界地図制作者)

 

THE FAST TRACK 2022
THE FAST TRACK 2022 – A MAP OF THE FAST UNIVERSE (Source:TVREV Feb. 21,2022)

 

最終更新日:2023年5月17日

Image Photos Source:Pluto TV / Tubi / Amazon Freevee / The Roku Channel / Xumo Play

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝

 

「FASTを知る」PDF版レポート

 

◆ FASTに関するアンケートにご協力ください。
*全てにご回答いただくと「集計結果」がご覧いただけます。

Q1. FASTについて以前から知っていましたか?
Q2. FASTは日本でも登場すると思いますか?
Q3. FASTは「地上波テレビ」の脅威になると思いますか?
Q4. FASTは「SVOD」の脅威になると思いますか?
Q5. 所属する企業・団体のことを教えてください。

 

米国のテレビ視聴測定に関するメモ