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コンバージドTVとは?

コンバージドTVとは?

コンバージドTV:定義と背景

「コンバージドTV(Converged TV)」とは、リニアTV(従来のテレビ放送)とネット接続されたコネクテッドTV(CTV)、さらにPCやスマホなどでの動画視聴を統合的に捉える考え方です。「枠組み」と呼ぶこともできるでしょう。

これまで、テレビCMとデジタル動画広告は、メディアプランニング(およびバイイング)や測定基準が分断された形で活用されることも少なくありませんでした。しかし、視聴行動が「どの画面で見るか」ではなく、「何を見るか」へと変化する中で、とりわけリニアTVとCTVを “同じテレビ体験” として設計・評価する必要が高まっています。

 

コンバージドTVの類似語の存在

ただ、関連資料などを研究するとコンバージドTV以外にも「コンバージェントTV(Convergent TV)」や「コンバージェンスTV(Convergence TV)」といった用語も見られます。これらは同じような意味合いで使われることも多いのですが、異なるニュアンスを持つ場合もあります。

プログラマティカでは、以下のように整理をしたうえで、このプログラBLOGでは「コンバージドTV」という用語に全て統一して使用します。

用語 日本語でのニュアンス・意味 主な使用文脈・領域
コンバージドTV 広告主目線で、リニアとストリーミング視聴のメディア戦略上での統合視点 マーケティング・広告領域
コンバージェントTV 技術や機材の融合、将来性の観点 技術・放送通信領域
コンバージェンスTV 学術や広義でのメディア融合の視点 メディア理論・研究領域
 
(参考) コンバージドTV関連用語の定義と比較
用語 定義 文脈/特徴
コンバージドTV リニアTVとストリーミングを統合し、広告を最適化する実践的なメディア戦略 広告主視点での戦略的統合。従来のテレビとデジタル動画広告の統合を志向
コネクテッドTV(CTV) インターネットに接続されたテレビセット(スマートTV、ストリーミングデバイス、ゲーム機経由など) OTTコンテンツを大画面で視聴するためのデバイス。インパクトのあるクリエイティブを提供
OTT(Over-The-Top) インターネット経由で提供される動画ストリーミングサービス全般 VOD、AVOD、TVODなど様々なビジネスモデルを含む。CTVデバイス上で視聴される
メディアコンバージェンス 従来の単独メディアが、視聴者ニーズに応え組織化していく現象 広義のメディア融合概念。技術的な「コンバージェンス」とは異なる

なぜ今注目されているのか?:CTVの普及と測定の進化

コンバージドTVが注目される背景には、以下のような変化があります:

  • CTVの急速な普及
    TVer、YouTube、Netflixだけでなく、テレビ画面で視聴できる多くの配信サービスが一般化してきた。
  • 広告接点の複層化
    「地上波だけではリーチできない」ターゲットが増加し、CTVを加えたメディア戦略が必須となってきた。
  • 測定技術の進化
    米国ではACM(平均CM視聴数)からICM(個別CM視聴数)への移行、クロスメディア視聴測定の基準化、日本でも各視聴測定事業者の測定システムが進化し、「インプレッション単位」での統合評価が現実味を帯びてきた。

こうした動きを受け、コンバージドTVは “テレビ” というメディアの総合評価軸として注目されています。

 

米国における潮流:OpenAP、VAB、JICなどの動き

米国ではすでに「コンバージドTV」という言葉は広く浸透し、新たな「枠組み」として商習慣に組み込まれ始めています。

  • OpenAP
    複数のテレビネットワーク(FOX, NBCUなど)が共同設立したターゲットプランニング&測定基盤。リニア/CTVを横断して配信・評価している。
  • VAB(Video Advertising Bureau/米テレビ業界団体)
    業界全体に向けて、コンバージドTVの事例やKPI指標を体系化。広告主・広告会社の理解促進を図っている。
  • JIC(Joint Industry Committee/米業界合同委員会)
    米国初のクロスメディア測定基準を策定する業界横断型の組織。Nielsen以外の測定事業者との比較検証を進行中である。

これにより、広告取引の “通貨” や視聴データの “指標” がマルチ化(ひとつの基準で無くなる)されつつあります。

 

日本における展望:TVer・ABEMAとの交差点

日本では「コンバージドTV」という言葉は、まだ浸透していないように思いますが、以下のような変化が始まっています。

  • TVer、ABEMAの台頭
    見逃し配信の視聴がテレビデバイスでも主流化。実質的なCTV化が進行している。リアルタイム配信で視聴できる可能性も遠くないかもしれない。
  • 地上波テレビ局による番組連携型配信
    放送と配信を一体で編成・評価する試みが増加中。CTVでのCM枠拡充やターゲティング広告も展開されている。
  • 視聴測定の整備
    ビデオリサーチ社などの測定事業者のCTV測定や、広告会社による独自の統合視聴測定の試行も始まってきている。

つまり、日本においても「CTV+地上波の一体設計」が、技術的にも広告枠的にも現実化しつつあります。

 

コンバージドTVがもたらす新しい広告価値とは

コンバージドTVがもたらす主な価値は以下の3点です:

  • リーチの最適化(補完)
    地上波で届かないターゲット層に、CTVを使ってリーチ補完が可能。
    → ただし、今後はテレビCMが補完的役割になっていく必要がある。テレビCMの進化のため。
  • フルファネル対応
    地上波でブランド想起を、CTVで認知→興味→行動の深度設計が可能に。
    → ただし、「新トリプルメディア」の考え方においては、従来のファネルやフロー型の思考は古いといえる。
  • 統合計測とKPI設計
    GRPベースでは測りにくかった「実視聴・態度変容」まで、クロスメディアで追跡可能。
    → したがって、テレビCMもインプレッション取引されることが前提。ただし、「総量評価」が必要。

単なる “メディアミックス” ではなく、「視聴体験を軸にした広告評価」へとシフトする一歩が、ここにあります。

 

今後の課題と可能性(測定・取引モデル・リーチ設計)

一方で、課題も残ります:

  • 視聴データの整備・統合性
    地上波/CTVの間で、視聴ログやIDの整合性が取れていないケースが多い。
  • 取引慣行の改革
    現在でもテレビCMはGRPベースのバイイングが主流であり、CPM・インプレッションベースへの転換にはハードルもいくつかある。
  • プランニング指標の整備
    広告主が納得できる指標化や、統合フリークエンシーの管理なども不可欠となってくる。

とはいえ、こうした課題を乗り越えた先にあるのは、「より正確なターゲティング」×「より柔軟な広告枠取引」という可能性です。コンバージドTVは、テレビ広告の次の時代を切り拓く鍵になることでしょう。しかし、生成AIの超急速な進化により、過度なターゲティングの先には「広告が “通知化”」する危惧も同時にあります。その際、“広告らしさ” をもっとも有するのは、従来のテレビCMである可能性が高いと考えられます。

 

テレビは、リニアかストリーミングか、という二項対立では語れない時代に入りました。これからは「視聴体験」そのものを軸に、広告の設計・測定・評価を再構築することが求められます。

「コンバージドTV」は、その出発点なのかもしれません。

 

Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝