テレビ広告の未来は「リーチ+意味」へ
2020年7月以来続けてまいりました「プログラBLOG」は、今回が最後となります。また、新たな形で情報提供していきたいと思います。その他の情報は、引き続き閲覧可能です。
最終回は、登壇させていただきました「SSKセミナー」の講演内容からのご紹介です。当日、会場にお越しいただいたみなさまには御礼申し上げます。また後日のアーカイブ配信をご覧になっていただくみなさまは、事前のご参考になさってください。
※本稿は2025年10月15日開催SSKセミナー「テレビ広告の進化」での講演内容(「コンバージドTV」におけるテレビ広告について)をもとに新たに書き起こしたものです。
1. コンバージドTVとは──"視聴者の体験"を軸に統合する発想

「コンバージドTV」という言葉は、初めて聞く方も多いかもしれません。
コンバージドTVとは、リニアTV・コネクテッドTV(CTV)、さらには PC や スマホ までを含めて「ひとつの視聴体験」として統合的に捉える考え方です。従来のクロスメディアは、広告主が複数メディアを横断的に活用するものでしたが、コンバージドTVは "視聴者の体験" を軸に統合する発想です。
同じような意味で使われる似た言葉もありますが、「放送と通信の融合」は技術や理論の話だけでなく、特にコンバージドTVはマーケティング構造そのものの再設計を意味します。
2. テレビ広告の「再定義」が始まっている

2025年、テレビ広告の世界は確実に変わり始めています。
米国では今年5月、Nielsenの調査レポート「The Gauge」によると、ストリーミングの視聴時間がリニアTVを完全に逆転 しました。この出来事は、単なる視聴環境の変化にとどまらず、「テレビ広告」という産業の根幹を揺さぶる構造変化を物語っています。
日本でも2024年、ネット広告費はテレビ広告費の1.7倍にまで達しました。ただ、テレビメディア関連の動画広告費だけで見ると、その比率は5%以下です。「テレビはまだ主役」と思いたくなるかも知れません。しかし、重要なのは "規模" のような物理的な変化ではなく、"構造的な変化" です。家庭内の最大スクリーンというテレビ画面の存在感は残りつつも、取引指標や価値基準は変わり始めなければなりません。
半世紀にわたり使われてきた「GRP(延べ視聴率)」という素晴らしい仕組みは、視聴環境の多層化・分断化により、限界を迎えつつあります。今、必要なのは単なるデータ変換ではなく、「テレビ広告の再定義」そのものなのです。
3. GRPからインプレッション取引へ──単なる指標変更ではない構造転換

「もう、GRPをインプレッションに "換算" してるから、それでよいのでは?」と思われるかも知れませんが、それとインプレッションで "直接取引" することは全く異なります。似て非なるもの です。それは単に指標を変えるだけの話ではありません。言うならば、メートルをインチに読み替えるのではなく、"メートルがリットル" に変わるほど大きな転換 なのです。
たとえばインプレッション取引では、実績ベース(アクチュアル)の請求が前提になります。これは広告主にとっては透明で合理的ですが、テレビ局にとってはこれまでバッファを収益として吸収していた部分が消失することになります。マイナス面も大きいのです。
つまり、「取引の通貨を変える」だけでは足りません。取引構造と評価ロジックそのものを刷新する必要がある のです。
4. デジタル発想の落とし穴──ターゲティングの「過剰効率化」

もうひとつ注意すべきことがあります。それは、デジタル発想の落とし穴 です。
たとえば、新車RV発売キャンペーンにおいて、ターゲットに「新車購入検討」「アウトドア好き」「20〜40代男女」という3つの条件を設定したとします。それらが重なる部分はとても魅力的な層ですが、関東エリア4,000万人で見ると、その数はわずか70万人ほどしかいないことになります。(当社独自試算)
デジタル広告では、こうした精緻なターゲティングによる広告配信がすでに可能ですが、それをテレビ広告の世界にそのまま持ち込むと、ターゲット母数が極端に矮小化 し、このメイン層だけに広告を投下してもメーカーとしては販売実績は伸びていかない可能性があります。
また、AIのさらなる進化により広告は "通知化" してしまうリスク もあります。過度のターゲティングはリーチの広がりを失い、大きな成果が期待できない「二重の不利」(ダブルジョパディー)におちいり、ブランドの成長基盤を削ってしまう危険性もはらんでいます。
5. 「周辺ターゲット」と「総量評価」の視点

テレビCMの最大の特徴 は、メインターゲット以外にもリーチが広がることです。それを「スピルオーバー・インプレッション」(副次的な到達)といいます。これはデジタル広告で起きる「誤配信」(非ターゲットへの配信)とは違い、「周辺ターゲット」という価値のあるインプレッションを含みます。
そこでたとえば、メインターゲットを「1.0」(仮にCPM2,000円)としたとき、周辺ターゲット①は「0.8」(CPM1,600円)、②は「0.5」(CPM1,000円)といった「評価係数」を設定します(あるいは直接ターゲットCPMを設定)。これにより、「どの層にどの程度の価値を見出せるか?」を実数ベースで可視化できるようになります。
こうした「総量評価」の考え方は、従来のGRPにはなかった視点です。評価の総和を見ることで、テレビ広告の "隠れた価値" を取り戻すことができるのです。
6. 微分と積分の関係で捉える「トータルターゲットCPM」

この「総量評価」は一見複雑そうに見えますが、ロジックは極めてシンプル です。セグメントごとのCPM(ターゲットCPMᵢ)に、構成比(impsᵢ/Σimpsᵢ)を掛け合わせ、加重平均するだけで求められます。したがって、ローカル局でも十分に独自導入が可能だと考ています。
この加重平均したCPMを「トータルターゲットCPM」と呼んでいます。いわば、インプレッション評価における "積分" の結果です。これに対して、データなどに基づいて分解したターゲットごとのCPMは "微分" に相当します。
仮に、個別ターゲットCPMが瞬間的な効率を示す自動車の「速度計」だとすれば、トータルターゲットCPMは、その積分としての総量を表す「走行距離」のような指標だと考えてください。この「微分と積分の関係」で見ることで、どの範囲まで評価すればROIが最も高くなるのかを探れるようになります。
この考え方によって、ターゲットごとの評価を「瞬間の効率」から「全体の成果」へとつなげることができると考えています。
以下の引用図7は、総量評価の簡略した計算例になります。
*「総量評価」の感覚がつかめる 簡易シミュレータ「iTSウェブ版」を公開しています。ご興味があれば試してみてください。

7. コンバージドTVでのメディア戦略──CTV広告とテレビCMの補完関係

プレミアムなコンテンツへの配信を前提とする CTV広告では、ターゲティング精度が高い一方で、コスト(CPM)も上昇し全体のリーチは減少 します。一方の テレビCMは、低〜中程度のCPMで周辺ターゲットも含んでリーチ することができます。
引用図8の当社で行ったシミュレーション*においても、CTV広告の比率を上げ過ぎるとリーチは激減し、オンターゲットのCPMも跳ね上がっていきます。*予算を5%刻みでテレビCMからCTV広告にアロケーション
このため、CTV広告でメインターゲットの粒度を上げ、テレビCMで周辺ターゲットまで広くカバーするという補完設計が重要になります。コンバージドTVでのメディア戦略においては、このような役割分担による補完が⽋かせないでしょう。
また、テレビCMはあえて補完の役割に回った方が、その使い方の可能性も広がり、結果的に単価(CPM)も上がるのではないかと実は考えています。たとえば、テレビCMのアクチュアル未達分をプレミアムな単価のCTV広告で補填することはできませんが、その逆は十分にあり得るでしょう。(ただし、個人ALLのままでは広告主の納得性も、テレビ局の効率性も高まらない)
8. 新トリプルメディアマーケティングとの接続

"脱テレビ1強" 時代 に対して、「新トリプルメディアマーケティング」という考え方がすでに提唱されています。
旧来の POE(ペイド/オウンド/アーンド)という三分類から、SNS × リテールメディア × コンバージドTV の新たな三位一体、連携が今後は重要となってくるでしょう。その活用の1例としては、
- SNS起点で "兆し" を捉え
- リテールメディアで "反応" を確かめ
- CTV広告で "ターゲット粒度" を上げ
- テレビCMで "周辺ターゲット" へ広げる
- 再びSNSで "兆しの変化" を観察
こうした循環(サイクル)のように、テレビCMを最初に使うだけでなく、後で "テレビの瞬発⼒" を活⽤するような使い⽅も考えられます。「CTVとリニアTVの最適アロケーション」は、現状でそのまま当てはめられるものでもありませんが、海外の先行事例もいくつかあるようですので参考になさってみてください。
9. 最後に:リーチから"リーチ+意味"へ

これからのテレビ広告は、リーチの数ではなく「リーチの意味」が問われる時代になります。
たとえばコンテンツを軸に、どのような文脈で届いたのか—その "意味" を可視化することが、広告価値の再定義につながります。「周辺ターゲット」や「総量評価」、「トータルターゲットCPM」などの概念は、すべてそのための手段です。
それらはテレビを守るための「防衛線」ではなく、テレビを再び前進させるための 生命線 なのです。
今後に向けてのポイントとして注⽬したいのは
- マルチカレンシー(多通貨)の共存期 に⼊っていくということ
ただし、必ずしも新しい事業者が必要だということではなく、これまでの指標だけでなく、新たな「取引指標」が必要になるという意味 - そのために、CTV×リニアTVの横断計測がより現実化 していく(進む必要がある)
- そこでは「周辺ターゲット」や「総量評価」のような新しい評価モデルが、テレビ広告の価値を再定義 していける
- また、単に広くリーチすればいい、ということではなく、たとえば コンテンツを起点するような配信設計 も重要になる
プログラマティカが、以上のような考えにこだわってきた理由はひとつ —
「テレビCMをもう一度元気にしたい」「テレビはまだまだ⼒があるんだ」という "想い" があるからです。
そんな想いをオリジナルアルバム「コンバージドTVへの道」として、唄にも込めました。
空いたお時間に、耳からも "テレビの進化" をもっと身近に感じてみてください。
Programmatica Inc.
Yoshiteru Umeda|楳田良輝
コンバージドTVへの道|The Road to Converged TV

詞曲:Yoshiteru Umeda 唄:THE 魂覇志
<収録曲>
もう上限だぜ!/America on Fire/消えない使命/その先にある明日へ/周辺ターゲットと呼ばれて/Redefinition(再定義しようよ)/君とゲームチェンジ (feat. TEEVEES)/ポテンシャルは眠っている/今、やれること/輝きのインプレッション
全10曲、32分36秒 ℗ 2025 Programmatica Music
<音楽配信サービス>
Spotify https://x.gd/fAR7q
Amazon Music https://x.gd/xbTT5
YouTube Music https://x.gd/Ss5VR
Apple Music https://x.gd/rC8cK
