前略。
結論が出る前の話や
手ざわりの残る出来ごとなどを
余白にて、書きとめています。
今回は、
小説:テレビ信陽④「ローカル局の現在地」
という話です。
あらためて足元を見直す森崎
この話は全てフィクションである。
中期経営計画案は、
経営会議で60点という評価を受けた。
AIによる分析でも、
- Layer3はキー局の劣化版ではないか?
- テレビ信陽でなければならない理由が弱い
という厳しい指摘を受けた。
森崎は、ふと思った。
「そもそも、信陽とはどんな地域なのか」
長く東京支社に勤務していた森崎だが、
元々、信陽エリアの出身者というわけでもなかった。
たしかに、中計書に「戦略」は書いた。
しかし、
信陽という土地、街を自分はちゃんと知っているのか?
もう一度きちんと理解してみようと思った。
テレビ局の未来を考えるなら、
まずはそのテレビ局が存在する地域を
数字で見直す必要がある。
森崎は信陽エリアのデータを整理し始めた。
信陽エリアという市場
テレビ信陽(SYT)がカバーする
信陽エリアの概要は、次の通りである。
信陽エリア 基本指標(推計)
人口
約180万人
世帯数
約75万世帯
県内総生産(GDP)
約7.5兆円
主要都市
- 信山市(県庁所在地)
- 陽北市(テレビ信陽本社)
- 東浜市(工業都市)
産業構造
| 分野 | 特徴 |
| 農業 | 米・果樹・酒造 |
| 製造 | 食品加工・機械 |
| 観光 | 温泉・海岸景観 |
| 流通 | 地域スーパー網 |
人口規模としては、
「典型的な県域ローカル局のマーケットサイズ」
である。
県内広告市場
約 300〜350億円
媒体別構成(推定)
| 媒体 | 規模 |
| テレビ | 約80〜100億円 |
| デジタル | 約120億円 |
| 新聞 | 約60億円 |
| その他 | 約40億円 |
そのうち
テレビ信陽の売上は
約55億円
つまり
県内テレビ広告市場の中核メディア
である。
テレビ信陽(SYT)の現在地

テレビ信陽は
開局55年 の県域民放局である。
系列
キー局ネット系列
社員数
約120名
拠点
- 本社:陽北市
- 支社:東京
売上規模
約55億円
ローカル局としては
中規模クラス に位置する。
テレビ信陽の収益構造
現在のSYTの収益構造は
次のようになっている。
2025年度 売上構成
| 区分 | 金額 |
| ネットワーク収入 | 約11億円 |
| タイム広告 | 約10億円 |
| スポット広告 | 約20億円 |
| 既存非広告収益 | 約14億円 |
売上合計
約55億円
広告収入
約41億円
広告依存比率
約75%
ネットワーク収入という特殊構造
ローカル局の収益構造には
独特の要素がある。
それが
キー局分配収入 である。
系列ローカル局の多くは
売上の約15〜25% を
キー局番組の分配収入に依存している。
SYTの場合は 約11億円
売上比率
約20% である。
つまり、
広告を売らなくても入る収入 が存在する。
これは長年
ローカル局の経営を支えてきた。
しかし同時に
構造的依存 でもある。
テレビ信陽のP/L(概略)
SYTの損益構造は
概ね次のようなイメージになる。
売上
55億円
費用
約50億円
内訳
| 費用 | 規模 |
| 人件費 | 約18億円 |
| 番組制作費 | 約14億円 |
| ネットワーク費 | 約5億円 |
| 送信設備 | 約6億円 |
| 営業・管理費 | 約7億円 |
営業利益
約5億円
営業利益率
約9%
ローカル局としては
平均的な水準 である。
テレビ信陽のB/S(概略)
テレビ局は
比較的固定資産の多い業種である。
SYTの貸借対照表は
おおよそ次の規模になる。
総資産
約70億円
内訳
| 資産 | 規模 |
| 放送設備 | 約25億円 |
| 不動産 | 約15億円 |
| 現預金 | 約20億円 |
| その他 | 約10億円 |
負債
約30億円
純資産
約40億円
財務体質は
比較的安定 している。
しかし問題はここから始まる
森崎が見ていたのは
この数字の 未来 だった。
現在、売上
55億円 だが
業界では、次のように言われている。
ローカル局の経営臨界点
売上40〜50億円
このラインを下回ると
- 人件費削減
- 制作費削減
- 番組縮小
が一気に始まる。
つまり
あと5〜10億の減収
で、状況は大きく変わる。
広告市場の構造変化
問題は
広告市場の変化である。
テレビ広告費は
構造的に縮小している。
そして
ローカル局には
もう一つの問題がある。
それが
三重苦 と呼ばれる構造である。
- キー局分配収入への依存
- 東京代理店経由の広告構造
- 配信時代の視聴分散
この構造は
テレビ局が努力しても
簡単には変わらない。
だから森崎は考えている
テレビ信陽は
放送局のままで生き残れるのか。
それとも
別の会社になるのか。
森崎の頭の中には
もう一つの言葉が浮かんでいた。
「信陽を世界に届ける 地域情報商社へ」
この言葉は
まだ計画書の中にしか存在しない。
しかし、
テレビ信陽の未来は
おそらく
その方向にしかない。
ー つづく ー
(楳田 良輝)
*この話はフィクションです。出典・引用などを除き、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
