It always seems impossible until it’s done.
テレビ信陽(SYT)「2026〜2028年度中期経営計画」

テレビ信陽(SYT)「2026〜2028年度中期経営計画」

Yoshiteru Umeda|楳田良輝前略。

結論が出る前の話や
手ざわりの残る出来ごとなどを
余白にて、書きとめています。

今回は、
テレビ信陽(SYT)「2026〜2028年度中期経営計画」
という話です。

 

2026年3月某日、SYT経営会議にて。

この話は全てフィクションである。

2026年、開局55周年を迎えるローカル放送局「テレビ信陽(SYT)」に勤務する森崎ミノルは入社20年目。営業時代から、ローカル局におけるデータ活用の必要性を唱えてきた人物である。2年前に東京支社の営業部門から本社の経営企画室へ異動となり、今回初めて中期経営計画書の作成を担当することとなった。3月某日、森崎は中期経営計画書案を経営会議に提案した。

 

中期経営計画
2026年度 ─ 2028年度(3ヵ年)

「信陽を世界に届ける、地域情報商社へ」

テレビ信陽株式会社(SYT)経営企画室
2026年3月策定
*本資料は社外秘です。無断複製・転用を禁じます。

架空ローカル局:テレビ信陽(SYT)

 

エグゼクティブサマリー

本計画のポイントを理解するために

▌ 計画策定の背景と目的
テレビ信陽は売上高約55億円、開局55年の県域局である。地上波広告収入は構造的な縮小トレンドにあり、このまま現行モデルを維持すれば3〜5年で業界の「経営臨界点(売上40〜50億円)」に接近する。本計画は2026〜2028年度の3年間で、収益構造の能動的な転換を実現するための行動計画である。

▌ 戦略の3層構造
本計画の最大の特徴は、守りと攻めを3つのレイヤーで整理した点にある。

レイヤー 名称 内容 主な時間軸
Layer 1 守りの改革 キー局分配依存低減・地銀連携(広告主紹介+ファンド)・大手直接取引化 Phase 1〜2
Layer 2 足元の攻め 地元リテール企業・流通との共同事業・地域消費データ連携 Phase 1〜2
Layer 3 外向きの攻め C層(県外・海外の信陽ファン)向け非広告収益:配信・観光IP・インバウンド Phase 2〜3

▌ 3年間のフェーズと財務目標

Phase 1(2026年度) Phase 2(2027年度) Phase 3(2028年度)
テーマ 基盤整備・関係構築 事業立上げ・直接取引化 スケール・収益柱確立
売上目標 54〜55億円 55〜57億円 57〜60億円
非広告収益比率 28%以上 34%以上 40%以上
キー局分配依存度 現状より▲3%pt 現状より▲6%pt 現状より▲10%pt

第1章:外部環境分析

なぜ今、変わらなければならないか

1-1 広告市場の構造的崩壊
テレビ広告収入の低迷は景気サイクルではなく、デジタルへの不可逆的な予算シフトである。電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月発表)によれば、2025年のインターネット広告費は4兆459億円に達し、総広告費に占める構成比が初めて過半数(50.2%)を超えた。地上波テレビ広告費は1兆6,333億円(前年比99.9%)と微減に転じており、「底打ち」の期待は裏切られた格好だ。問題はその規模差だけでなく、「広告主の意思決定プロセス」が変化した点にある——デジタルで測定可能な投資対効果に慣れた広告主は、テレビの「リーチ」だけでは動かなくなっている。

指標 直近実績(2024年度) テレビ信陽への示唆
地上波テレビ広告費 1兆6,333億円(前年比99.9%) 微減に転じた。「底打ち」ではなく構造的下落の継続
ネット広告費 4兆459億円・総広告費の50.2%(初の過半数) ネットがテレビの約2.5倍。地元中小企業もデジタルに予算移行
系列ローカル局の経常利益 前年比+39.7%(2024年度) 見かけ上の改善。構造問題は未解決
損失計上局数 全国127局中47社(約24%) 二極化が加速。SYT(55億円)は臨界点の手前
経営臨界点(業界推計) 売上40〜50億円以下 現在55億円。5〜8億円の減収で危機水域

※ 広告市場データ出典:電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日発表)。ローカル局経営データは業界有識者推計・民間調査による。 

1-2 ローカル局固有の「三重苦」
① キー局分配収入への構造的依存
系列局の多くは売上の25〜35%をキー局番組の分配収入に依存している。この収入はTVeeなどの全国配信が拡大するにつれて縮小圧力を受ける。「自分で作っていない番組で稼ぐ」構造は、長期的に維持不能である。

② 大手広告主の「東京経由」問題
電電・博銀堂などの大手代理店を通じた大手広告主からの出稿は、代理店マージンの控除後にローカル局に到達する。広告主との直接関係がないため、ローカル局は「価格交渉力」も「提案機会」も持てない構造になっている。

③ TVeeのジレンマ
TVeeによる見逃し配信はキー局コンテンツをエリアフリーで届け、「ローカル局がなくてもキー局番組が見られる」状況を加速させている。ローカル局がTVeeに乗れば地元CMが入らず、乗らなければ若年視聴者を失う——板挟み構造が続いている。

1-3 信陽県エリアの機会
一方で信陽県は、ローカル局にとって追い風となる固有の機会も持っている。近年のインバウンド観光の成長、ふるさと納税経由の関係人口拡大、移住・テレワーク需要の高まりは「信陽に関心を持つ県外・海外の人」というC層の存在を可視化した。この層に一次情報を継続的に届けられるのは、55年間積み上げた地域の人脈と信頼を持つテレビ信陽だけである。

第2章:戦略の骨格

3層構造で守りと攻めを同時に動かす

2-1 ビジョン

「信陽を世界に届ける、地域情報商社へ」

放送局という自己定義を超え、信陽県の一次情報・人脈・信頼を武器に、
県外・海外の「信陽ファンエコノミー」を創出・運営する企業体へ転換する。

 

2-2 戦略の3層構造——守りと攻めの整理
本計画は「守りの事業は現状維持」という従来の発想を捨て、3つのレイヤー全てに能動的な戦略を持つ。

Layer 1 守りの改革(地場収益基盤の強化)
キー局分配依存を引き下げながら、地元金融機関・リテール企業との連携で「地域密着型の広告・事業収益」を再構築する。大手広告主との直接取引化も、この層の中核施策である。

施策 内容
地銀・信金との戦略提携 地域金融機関の取引先企業をテレビ局に紹介する「広告主紹介スキーム」を構築。地銀が持つ地域企業の経営情報・資金需要を活かし、中小企業の広告出稿・制作受託につなげる。
地域ファンド組成 地銀・信金の出資を受けた「信陽地域コンテンツファンド(仮)」を組成。新規非広告事業(観光IP・海外配信等)への投資原資を確保し、テレビ局単独のリスクを分散する。
大手広告主の直接取引化 現在、電電・博銀堂経由で出稿される大手広告主(飲料・金融・通信・自動車等)に対し、テレビ信陽が独自の地域提案を直接行う営業チームを設置。視聴データ・地域イベントを絡めた差別化提案で直接契約率を高める。

Layer 2 足元の攻め(地元リテール連携)
地元の有力流通・スーパー・小売チェーンは、テレビ信陽と同様に「信陽県の消費者」を顧客とする。なお、電通「2025年 日本の広告費」では、流通・小売業の地上波テレビ広告費が前年比111.1%と業種別でも特に高い伸びを示しており、リテール業界がテレビ媒体を重視していることを示す。広告主としての関係を土台に、共同イベント・地域物産のEC販売・消費データ連携へと協業モデルを発展させる。

施策 内容
リテール共同イベント 地元スーパー・流通チェーンと共同で「信陽食・産品フェア」等の大型イベントを年1〜2回開催。テレビ信陽が集客・PR、リテールが会場・物販を担うWin-Winの設計。収益はスポンサー料+物販マージンで分配。
地域物産ECとのコンテンツ連携 番組で紹介した農産品・工芸品を即時EC購入できる「信陽直売プラットフォーム」を構築。リテール企業の物流・決済インフラを活用し、テレビ信陽はコンテンツ制作と集客を担う。売上の数%をロイヤリティとして受領。
消費データ連携 地銀・リテールが持つ購買データとテレビ視聴データを組み合わせ、地域広告主向けの「効果測定可能なCM」を実現。広告単価の向上と広告主囲い込みを同時に達成する。

Layer 3 外向きの攻め(C層向け非広告収益)
上記2層で守りと足元を固めながら、県外・海外の「信陽ファン」を対象とした非広告収益を新たな収益柱として育てる。電通「2025年 日本の広告費」では「イベント・展示・映像ほか」が前年比111.2%と二桁成長を記録し、インバウンド需要の高まりがリアル体験市場を押し上げていることが確認された。地域の一次情報を「県外・海外で売れる形」に変換するコンテンツツーリズムは、この追い風に乗ることができる。

施策 内容
海外向けコンテンツ配信 信陽の自然・食・伝統文化・工芸コンテンツを英語・中国語等で制作し、アジア圏の配信プラットフォームで展開。視聴広告収益+ライセンスの複合モデル。
コンテンツツーリズム 番組を起点とした「信陽体験ツアー」を観光業者と共同商品化。農家・職人・料理人を訪ねるインバウンド向け体験型プログラム。
観光IPライセンス 信陽ブランドのキャラクター・番組フォーマット・映像素材を観光業者・地方自治体にライセンス提供。アーカイブ映像の二次利用促進も含む。

第3章:フェーズ別アクションプラン

3年間で何を・いつ・どうやるか

Phase 1 | 基盤整備・関係構築(2026年度)
テーマ:「守りを固め、攻めの土台を作る」

【Layer 1】地銀・信金との戦略提携締結
信陽県内の地方銀行・信用金庫との包括提携協定を締結する。提携の柱は2つ——①取引先企業への広告出稿紹介(地銀の営業担当者がテレビ信陽の営業と同行し、中小企業に媒体価値を提案)と、②信陽地域コンテンツファンドの設計・組成準備。

  • 地銀2行・信金1〜2社との包括提携協定の締結(2026年上期中)
  • 「広告主紹介プログラム」の設計:紹介手数料スキーム・営業同行ルールの整備
  • 地域コンテンツファンドの法的スキーム検討・出資構成の合意(金融機関・自治体・民間)
  • 新規広告主獲得目標:Phase 1で年間10社以上(地銀紹介経由)

【Layer 1】大手広告主の直接取引化・営業改革
現在、電電・博銀堂経由でテレビ信陽に流れる大手広告主(飲料・通信・金融・自動車など)に対し、独自の地域提案を直接行う「キーアカウント営業チーム」を設置する。視聴データ・地元イベント・ECとの連動という「テレビ信陽でしかできない提案」を武器にする。

  • キーアカウント営業チーム設置(既存営業部から3名専任化)
  • 視聴データ活用による「地域ターゲティング提案書」のひな型作成
  • 大手広告主との直接接点獲得目標:年間5社以上

【Layer 2】地元リテール企業との共同事業設計
信陽県内の有力スーパー・流通チェーン(目標:売上上位3社)との共同事業協定を締結。第1弾として「信陽食フェア」の共同開催を2026年度内に実施する。

  • リテール上位3社との共同事業協定の締結(2026年上期)
  • 「信陽食フェア 2026」の企画・実施:テレビ放送での告知+会場での物販
  • 番組連動ECの試験運用:月2〜3回の番組と連動した商品販売ページを開設

【Layer 3】C層向け事業の基盤整備
海外・県外向けコンテンツ事業の実証実験と、内部の変換能力獲得を並行して進める。

  • デジタル×地域コンテンツ専任チームの設置(社内公募5〜7名)
  • コンテンツ資産の棚卸し:観光・食・文化・自然カテゴリで分類
  • YooTubeチャンネル「SHINYO-Dayo(仮)」開設:英語・中国語字幕付きコンテンツを月4本以上
  • 自治体・観光業との収益分配スキーム設計(モデル3件の合意)
  • アジア圏配信プラットフォーム3社以上へのアプローチ開始
Phase 2 | 事業立上げ・直接取引化(2027年度)
テーマ:「小さく稼ぎ、直接関係を育てる」

【Layer 1】地銀連携の本格稼働・ファンド設立
Phase 1で設計したスキームを本格稼働させ、地銀紹介経由の広告収入を安定的な収益源として確立する。同時に地域コンテンツファンドを正式設立し、Layer 3の海外展開に向けた投資原資を確保する。

  • 地銀紹介経由の新規広告収入:年間2〜3億円規模を目標
  • 信陽地域コンテンツファンド正式設立:総額3〜5億円規模(地銀・自治体・民間共同出資)
  • ファンド第1号案件:海外配信事業・コンテンツツーリズムへの投資決定

【Layer 1】大手広告主との直接契約拡大
Phase 1で接点を持った大手広告主との直接契約を拡大する。視聴データと連動した効果測定の仕組みを整備し、「テレビ信陽は測定できる」という媒体価値を確立する。

  • 直接契約広告主:累計20社以上を目標
  • 視聴データ×購買データの連携分析レポートを広告主に定期提供
  • 代理店経由比率:現状比▲10%pt以上

【Layer 2】リテール連携の拡大・EC本格化
Phase 1の「信陽食フェア」の成功実績をベースに、共同イベントを定例化・拡大する。番組連動ECも本格運営に移行し、物販収益を確立する。

  • 共同イベントを年2回定例化:春(農業・食材)・秋(観光・工芸)
  • 番組連動EC「信陽直売市場(仮)」の本格運営:取扱商品100品目以上
  • EC年間流通額:1億円以上を目標
  • リテール消費データとの連携分析を広告主提案に活用

【Layer 3】海外配信・コンテンツツーリズムの本格展開
Phase 1の実証実験から得た知見をもとに、海外配信とコンテンツツーリズムを本格事業として立ち上げる。

  • アジア圏配信パートナーとの正式契約(8社以上)・月間配信本数20本規模に拡大
  • 「テレビが案内する信陽」体験ツアーの商品化:観光協会・旅行会社との共同開発
  • 海外旅行エージェントへの販路開拓(台湾・タイ・シンガポール優先)
  • 県外企業・インバウンド事業者向け制作受託:年間10本以上・売上2億円目標
Phase 3 | スケール・収益柱確立(2028年度)
テーマ:「3層全ての黒字化と収益構造転換の完成」

【Layer 1+2】地場収益基盤の完成
地銀連携・直接取引・リテール連携の3施策が安定軌道に乗り、キー局分配依存度を現状比▲10%pt以上引き下げる。これにより、広告市場の変動に対するショック吸収力が大幅に向上する。

  • 大手広告主直接契約:累計30社以上
  • 地銀紹介経由広告収入:年間3〜4億円安定化
  • リテール連携EC年間流通額:2億円以上、共同イベント年間入場者3万人以上

【Layer 3】C層事業の黒字化と外販化
海外配信・コンテンツツーリズム・観光IPライセンスの3事業が単独で黒字化。さらに、テレビ信陽が構築したモデルを他のローカル局・自治体に「地域情報商社化パッケージ」として外販することで、新たな収益源とブランド価値を確立する。

  • C層向け新規非広告収益:年間10億円以上
  • 地域情報商社モデルのパッケージ化・外販開始(他局・自治体向け)
  • 地域連携局:5局以上との共同コンテンツ流通

第4章:KPIと財務イメージ

何を指標に、どのような財務シナリオか

4-1 重点KPI一覧

KPI 2025年度

基準値

2026年度 Phase 1 2027年度 Phase 2 2028年度 Phase 3
L1 非広告収益比率(全体) 〜25% 28%以上 34%以上 40%以上
大手直接契約広告主数 0社 5社以上 20社以上 30社以上
地銀紹介経由新規広告収入 0 0.5〜1億円 2〜3億円 3〜4億円
L2 リテール連携EC流通額 0 試験運用 1億円以上 2億円以上
共同イベント年間来場者数 0 第1回実施 1.5万人以上 3万人以上
L3 海外配信パートナー社数 0社 3社以上 8社以上 15社以上
観光IP・ツーリズム売上 0 スキーム合意 2億円以上 4億円以上
C層向け新規非広告収益計 0 〜0.5億円 5〜6億円 10億円以上

4-2 財務イメージ(3年間の売上構造変化)
以下は業界データと本計画の施策規模を前提とした参考試算である。広告収入の漸減を、3層の施策による増収で補完・上回るシナリオを目指す。

売上区分 2025年度

 (基準)

2026年度 (Phase 1) 2027年度 (Phase 2) 2028年度 (Phase 3)
【広告】タイム収入 約21億円 約20億円 約19億円 約18億円
【広告】スポット収入 約20億円 約19億円 約18億円 約17億円
【L1】地銀・直接取引新規収入 0 〜1億円 2〜3億円 3〜4億円
【L2】リテール連携・EC収入 0 〜0.3億円 1〜1.5億円 2〜3億円
【L3】C層向け新規非広告収入 0 〜0.5億円 5〜6億円 10億円以上
既存非広告収益(制作受託等) 約14億円 約14億円 約13億円 約12億円
売上合計 約55億円 約54.8億円 約58.5億円 約62億円
非広告収益比率 25.5% 28.7% 37.6% 43.5%

※ 本試算は業界データ・施策規模の仮定をもとにした参考値。各年度の実績に基づき計画を年次更新する。
※ 新規3層施策(L1〜L3)の数値は控えめに設定。上振れ余地を考慮すると2028年度売上65億円超も視野に入る。

第5章:リスクと対応策

計画遂行上の主要リスクと備え

5-1 主要リスクと対応策

リスク 影響度 対応策
L1 地銀との合意形成に時間がかかる 中〜高 まず1行との試験的な「紹介プログラム」から開始。成功事例を作ってから横展開する。トップ同士の関係構築を優先。
L1 大手広告主が直接取引に応じない 代理店との関係を壊さず、「地域特化提案の上乗せ」として位置づけ、代理店経由案件との共存を前提に設計する。
L2 リテール企業のパートナーシップ温度感のズレ イベント第1回を「リスク小・成功しやすい設計」にして成功体験を共有。数字(来場者・EC売上)で説得する。
L3 海外配信・C層事業が収益化しない Phase 1での小規模実証で早期に仮説検証。撤退基準(例:12カ月で月次黒字化の目処が立たない場合)を事前設定し、過剰投資を防ぐ。地域ファンドで損失を局単独で抱えない設計に。
広告収入の想定超の急落 売上▲5億円・▲10億円シナリオ別のコスト削減余力を試算し、経営会議で確認。守りの改革(L1)が機能していれば、下落幅を相当程度吸収できる設計になっている。
人材転換の失敗・社内抵抗 中〜高 専任チームは社内公募で「やりたい人」を集め、最初の成功体験を作る。経営層の明確なコミットメントと、新事業への人事評価の組み込みが必須。

第6章:推進体制とガバナンス

誰が、どのように計画を動かすか

6-1 推進組織の設計
本計画の実行には、既存部門の縦割りを超えた専任推進体制が必要である。「地域情報商社推進室」を社長直轄の横断組織として新設し、3層の施策を一元的に管理する。

組織 役割と構成
地域情報商社推進室 社長直轄。営業・制作・報道・経営企画から各1〜2名(計5〜7名)。Layer 1〜3の新規施策の企画・実行・KPI管理を担当。社内公募で「変えたい人」を集める。
中期計画推進委員会 取締役会の下に設置。月1回開催。各フェーズの進捗確認・リスク評価・方針調整。社外の有識者(地銀・観光・デジタル)をオブザーバーとして招聘。
既存部門(守りの事業) 現行オペレーションの効率化を担当。推進室への人材・情報提供の協力窓口を設置。評価制度に「新事業協力」指標を追加。

6-2 年次レビューサイクル(ローリング型運用)
本計画は固定した3年計画ではなく、年次レビューによって修正・更新するローリング型で運用する。

  • 上半期末(9月):KPI進捗確認。施策の加速・縮小・停止の判断。Layer間の資源配分の見直し。
  • 下半期末(3月):年度総括。翌年度計画の更新。重点施策の見直し。地域コンテンツファンドの運用報告。
  • Phase移行時:取締役会承認のもと次Phaseへの移行可否を判断。KPI未達時の対応プランを同時提示。

6-3 成功の定義(2028年度末)
2028年度末時点で以下の3条件が全て満たされた場合、本計画は成功とみなす。

  1. 非広告収益比率40%以上を達成し、広告市場の変動に対する財務的な耐性が確立されていること
  2. 地銀・リテール・C層向けの3つの新収益源が全て黒字化し、単独で持続的に成長していること
  3. 「地域情報商社」としてのテレビ信陽のブランドが県内外に認知され、地域の金融・流通・観光・行政から頼られる存在になっていること

 

以上である。

森崎の提案書に対して、経営陣の反応は以下のようなものであった。

初めての中計書としては、大変よくまとまっていると思うが、評価は残念ながら60点である。

理由は、
①「見たことある未来」になっている
地銀連携・インバウンド・EC・海外配信――これらは他のローカル局がすでに言っていることの組み合わせでしかない。新しい組み合わせではあるが、現時点の計画にはインパクトがあまりない。
② 数字が「希望的観測」に見える
特に、リスク3(L3)のC層向け非広告収益が2027年度に5〜6億円、2028年度に10億円という数字は、根拠の乏しい。見直してほしい。
③「信陽でなければならない理由」が薄い
いかんせん、どこのローカル局にも当てはまるような計画に思える。当県の具体的な地理・産業・文化的特性から「だからこそこの戦略」という理由がもっと欲しい。

 

中計開始まで時間的な余裕はないが、森崎は再度計画書を練ることになった。

ー つづく ー

 

(楳田 良輝)

 

 

*この話はフィクションです。出典・引用などを除き、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。