
前略。
結論が出る前の話や
手ざわりの残る出来ごとなどを
余白にて、書きとめています。
初回は、
Spotify広告は「売る広告」ではないのかもしれない
という話です。
音声広告のこれからを考える
“好きであり続けてもらうための広告”という再定義
音声広告が、あらためて注目を集めているようですね。
Podcast、音声SNS、そしてSpotify。
「画面を見ないメディア」として、音声は確かに生活の中に深く入り込みました。
一方で、こんな声もよく聞きます。
- 音声広告は成果が分かりにくい
- クリックもコンバージョンも取れない
- 結局、何に効いているのか分からない
しかし、この違和感は本当に「音声広告の弱さ」なのでしょうか。
逆に、測ろうとしている “物差し”そのものがズレているのではないか と感じています。
音声広告、とりわけSpotify広告は
これまでの広告とは まったく違う役割 を担い始めていると考えています。
それを理解しないまま使えば、「効かない広告」に見えるのは当然です。
新しくスタートする「前略、余白にて」の初回は
このSpotify広告を中心に、音声広告の役割を再定義しながら
「どんな広告主が使うべきか」「何を目的にすべきか」を私なりに考えてみたいと思います。
音声広告は3つのモデルに分けられる
現在の音声広告は、大きく3つのモデルに分けられると考えています。
1. ラジオ/radiko型
従来のラジオ広告の延長線にあるモデルです。
地域性が強く、比較的低予算でも出稿でき
告知・販促・集客に向いています。
これはこれで、非常に完成度の高い広告モデルです。
私自身も、radikoだけでなく、カーステレオ、いまだにラジカセでもよく聴きます。
2. YouTube型(動画プラットフォーム従属型)
音楽を映像プラットフォームで聴く人たち向けのモデルです。
広告ロジックは動画広告そのもので
ミッドロール、スキップ前提、CV重視。
音声体験よりも、広告在庫と効率が優先されます。
私自身は、YouTubeはもっぱら動画視聴のみです。
3. Spotify型
そして、Spotifyです。私自身、課金して長く利用しています。
AppleやAmazon、YouTubeにもMusicアプリはありますが、
分類するなら、私はSpotify派です。(ただし、他もすべて使ってはいます)
実はSpotifyにもFree(無料)モデルがあります。
このモデルは、前述の1と2とは決定的に異なります。
・生活の中で流れる音声メディアだが、主役は放送側ではなく「個人の時間」にある
・それは“聴く”というより、生活のリズムに沿って流れ続けている
・広告は割り込みではなく、体験を分断しないよう設計された「幕間」としてのみ存在する
・コンテンツと広告を含めた体験全体が、ひとつのプロダクト価値として成立している
このSpotify広告は、
音声広告を民主化するモデルではないのだろうと思っています。
むしろ、体験を壊さない広告主を選ばなければ成立しないモデル です。
Spotify広告は「完全ミドルファネル」である
Spotify広告を語る上で、最も重要なのはここです。
人の購買行動を「ファネルで語る」時代は過ぎた気もしますが
あえていうなら、Spotify広告は
認知(アッパーファネル)でもなければ
刈り取り・コンバージョン(ローワーファネル)でもありません。
完全に、ミドルファネル専業 です。
初期認知 を狙うと
「(その商品やサービスを)聞いたことはあるが、よく分からない」存在が増えます。
いわゆる 刈り取り を狙うと
音声体験そのものが壊れ
「音声広告=邪魔」という負の視聴体験の学習が進んでしまいます。
極論すると、
Spotify広告が担うべき役割は、売ることではありません。
判断を促さず
判断しやすい状態を保つこと。
つまり、
その商品やサービスが「売られてもいい(買ってもいいな)状態」を維持する広告です。
テレビCMとの役割分担
ここで、テレビCMとの関係を整理します。
テレビCMの役割で大きいのは、今も明確です。
(もちろん、他にも役割があると思いますが)
- 社会的に認められた存在だと示す
- 「これを選んでも間違いではない」と伝える
- 大きな物語で、“揺れ”を止める
これを、
プログラマティカでは「揺れを止める広告」と呼んでいます。(そのまんまです)
一方、Spotify広告はどうか。
Spotify広告は
この “揺れ”を止める広告ではありません。
揺れが再発しないように
そっと支え続ける広告。
テレビCMが「決着をつける」広告なら
(ただし、テレビCMのこの役割は徐々に薄れてきていると感じる)
Spotify広告は「決着後の心を安定させる」広告です。
以前は、テレビCMがその両方を担っていた気がします。
しかし今後、両者は代替関係ではなく
時間軸の異なる分業関係 にあります。

Spotify広告とは「関係維持の行為」である
そこで、人間関係にたとえると分かりやすいと思います。
恋人やパートナー、友人関係として考えてみます。
- 出会い、好きになるきっかけ
- 関係を選ぶ決断
これは、テレビCMの役割に近い。
一方で、
- 記念日にきちんと感謝を伝える
- 押し付けない気遣いを続ける
- 関係を壊さない距離感を保つ
これは、Spotify広告が持つ役割に非常によく似ています。
Spotify広告とは、
好きになってもらうための広告ではなく
好きであり続けてもらうための広告。
さらに踏み込めば、
「広告で何かを起こさないこと」
そのものが、最大の成果なのかもしれない。
これは、従来の広告観とは真逆です。
広告はリーチや枠だけでなく、環境や文脈で機能する
例えば、サッポロビールの「黒ラベル」のCMに代表されるような
非常に強い世界観をつくり込んだテレビCMがあります。
ただ一方で、そうした完成度の高いテレビCMであっても
そもそもテレビを「見ない」「持っていない」人も増えてきています。
そこで、映像広告として別のメディアを使って(たとえばストリーミング)
その人たちの世界観に割り込もうとするだけではなく
生活の中で日常的に触れている音声や音楽を通じて
黒ラベルというブランドを飽きさせずに刷り込んでいく。
「これを選んでいれば間違いない」
そんな感覚を、Spotifyのような音声メディアで
静かに維持していく。
それは、売るための広告というより
選ばれ続けるための広告だと言えるのではないでしょうか。
さらに言えば、テレビCMは必ずしも
ブランドが意図した文脈の中だけで視聴されるとは限りません。
テレビCMもコンテンツの合間に挿入されますが
その番組内容やトーンまで、広告主が完全にコントロールすることはできません。
また、CMには出稿順(CMが流れる順番)があり
必ずしもファーストインブレイク(FIB:CMチャンスの最初のCM)に放映されるとは限らず
その前後に流れる別のCMも含めて
視聴者にとっては一連の世界観として受け取られます。
そう考えると、完成度の高いテレビCMであっても
その世界観が常に理想的な環境で届けられているとは言い切れません。
広告は、リーチの大きさや枠の確保だけで成立するものではなく
どのような環境や文脈の中で受け取られるかによって
その効き方は大きく変わってきます。
一方で、Spotifyのような音声メディアでは
コンテンツそのものを含めた「場の雰囲気」が、
生活の中で繰り返し再生される“リズム”として存在しています。
冒頭で「物差しが違うかも」と書きましたが
Spotify広告にKPIを置くとすれば
たとえば、次のような指標が考えられることでしょう。
- 再検索率の低下
- 比較行動の減少
- ブランドスイッチ率の低下
- 想起時のネガティブ反応の減少 etc
いずれも「今すぐ売れたか」ではなく、
迷いやノイズが減っているかを見るような指標です。
なぜSpotify広告は「拾いすぎてはいけない」のか
ここで、ラジオ広告との違いが明確になります。
ラジオ広告は、
- 低予算
- 小規模
- 地域密着
といった広告主を広く受け入れることで成立します。
KPIを設定するとするならば、たとえば
- 認知率
- 想起率
- ブランド好意
- 来店・検索の “きっかけ”
などが中心となることでしょう。
Spotify広告は、違います。
確かに、プログラマティック環境も整っています。
細かなターゲティングや出しわけもできることでしょう。
しかし、効率の論理を優先しすぎると
ユーザー体験が“ごちゃまぜ”になります。
トーンの違う広告
強い売り込み
頻度の高い繰り返し。
それらが増えれば
Spotify広告が持っていたはずの
優位性・特異性は一気に失われます。
Spotify広告の価値は
希少性と統制 にあります。
Spotify広告を使うべきブランド、使うべきでないブランド
この思想に立つと
「どんな広告主とご一緒すべきか」は明確です。
向いているブランド
- すでに一定の認知・利用がある
- 壊したくないブランド
- 静かな価値を大切にする
- 長期視点で関係を考えられる
向いていないブランド
- 初期認知を一気に取りたい
- 即時CVを求める
- FQを上げたがる
- 広告を使い捨てで考える
Spotify広告は、
強くしたいブランドのための広告ではありません。
壊したくないブランドが使うべき広告です。
(ただし、新規の売上も必ず付いてくることでしょう)
最後に
Spotify広告は、万能ではありません。(と勝手に考えています)
むしろ、使いどころを間違えると
ブランドを静かに傷つけてしまう広告なのかもしれません。
しかし一方で、
このあらたな役割を正しく担えるメディアも、ほとんど存在しません。
音声広告の未来は、
- 何かを起こすこと
- 声を大きくすること
ではなく、
何も壊さないこと。
関係を続けられる状態を
そっと支え続けること。
Spotify広告とは
「短期成果を最大化するための広告」ではなく、
「長期成果を毀損しないための広告」なのだと思います。
テレビCMが、その役割を果たせなくなりつつある昨今
その先に、Spotify広告(音声広告の再定義)という「新しい答え」があります。
──*──
余談ですが、私自身は、いつ頃からSpotifyのお世話になっているのだろう?と、休憩の合間に調べてみました。
ところが、2013年(1月1日)より前のメールは全て消去してしまっていたので、Spotifyの加入時期は不明でした。ただ、2013年9月頃に「SpotiFinder ™ for Spotify Premium, v2.0」というアプリをApp Storeで追加購入した履歴があったので、それより前の時期なんだろうと思います。おそらくUS/UKストアでアカウントを作ったのでしょう。
2016〜2017年?Spotifyが日本で正式にローンチされて以降は、ずっとPremiumでしたので、というか、最初はFreeモデルがなかったように記憶しています。そして、途中からできたFreeモデルは楽曲をフル再生できないとばかり思っていました・・。(この機会にFreeアカウントを初めて作ってみて、広告モデルもフルに曲を聴けるのだと知ったのでR。CTVでもアプリがあるのね) お恥ずかしい!
でも、「広告モデル」素晴らしいじゃないですか‼︎ 今後はApple派、Amazon派、YouTube派、“派閥”を越えて、友人に気兼ねなく、おすすめ曲などをシェアできますね。
今回は、たまたまSpotify広告について考える機会がありましたので
新たにスタートした「前略、余白にて」の最初の寄稿としてしてみました。
(楳田 良輝)
