- 目 次 -
弁護士
5月の第2週目、ゴールデンウィーク明けのことだった。
「上田代行、最近ずっと弁護士みたいな人と話してるらしいですよ」
田所がそう言ったのは、昼休みが終わってすぐのことだった。特に深刻な様子でもなく、社内の噂を共有するような口調だった。
「誰から聞いた?」
「総務の人から。連休中も社長室に毎日のように来てたって。なんか、法律事務所の名刺を持ってる人らしくて...」
森崎は何も言わなかった。テレビ局は基本的にゴールデンウィークといっても、局の中では誰かしらが働いている。
田所は少し間を置いてから「捜査二課の件ですかね」と続けた。それ以上は言わなかった。
「そうかもしれないな」と森崎は言った。
捜査二課は信陽建設の関係者を逮捕後、陽北土木も逮捕した。SYTへの捜査も続いていた。上田と森元への事情聴取が始まっているという話は、総務部長の顔色から読めた。聞かなくてもわかることがある。
「森崎さんには、また来てますか?」
「まだだ」
「来るんですかね」
「来るだろうな」と森崎は答えた。「ただ、それより先にやることがある」
田所は少し首を傾けたが、聞かなかった。

捜査一課の影
午後、総務部長が経営企画室に来た。
「少し、よろしいですか?」
廊下の端で、小声で話した。
「捜査一課が、また来ました。今度は藤原さんの件で。今日は私と、経理部長が呼ばれました」
「何を聞かれましたか?」
「藤原さんが辻本さんの自宅を訪れた記録があるかどうか、と。それから——辻本さんが亡くなった日の夜、誰が残業していたか」
森崎は少しの間、黙っていた。
「わかりました」と森崎は言った。「教えていただきありがとうございます」
総務部長は何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わずに戻っていった。
廊下に一人残って、森崎は窓の外を見た。
捜査一課が、辻本の死と藤原を結びつけようとしている。そのことを、高野は知っているに違いない。「病気休養」の高野が、今どこで何を考えているのか——森崎には想像もできなかった。
ただ、一つだけわかることがあった。
自分が動かなければ、何も動かない。
森崎の決断
デスクに戻り、森崎はスマホを取り出した。
高野の番号を開いた。
これまで、高野からかかってきたことはあった。中計書が通った後、居酒屋に呼ばれたのも高野からだった。しかし森崎の方から高野に連絡したことは、一度もなかった。
着信音が鳴った。2回。3回。
「森崎くん」
高野の声は、穏やかだった。「病気休養」中とは思えないほど、落ち着いていた。
「突然すみません」と森崎は言った。「お時間をいただけますか。聞きたいことがあります」
短い沈黙があった。
「そうだな」と高野は言った。「そろそろだと思っていた」
「あの店でいいですか?」
「ああ」と高野は答えた。「今週末、空いているか?」
「はい」
「では、土曜日の夜に」
電話が切れた。
森崎はスマホを置いた。
窓の外、陽北市の午後の空が広がっていた。信陽の夕方が、少しずつ近づいていた。
ー つづく ー
作:楳田 良輝|Yoshiteru Umeda
*本小説はフィクションです。出典・引用などを除き、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

