It always seems impossible until it’s done.
Netflix × Warner Bros. Discovery 買収公聴会において

Netflix × Warner Bros. Discovery 買収公聴会において

前略。

結論が出る前の話や
手ざわりの残る出来ごとなどを
余白にて、書きとめています。

今回は、前回につづき
Netflix × Warner Bros. Discovery 買収公聴会において
という話です。

NetflixとWBDへの公聴会開催

2026年2月3日、
Netflixによるワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)の買収を巡る
米連邦議会上院の司法委員会による公聴会が開かれました。

国内でも、ニュースとして取り上げられていましたが
それは限定的な内容でした。

実際にはどうだったのでしょうか?

公聴会の内容は、規定により1週間公開された後に “クローズド” されるとのこと。
つまり、公式記録はとしてはまだ確定していないようですが、
動画やテキストなどは、各所で視聴、閲覧可能です。

それにしても、
なかなか噛み合わない議論が繰り返されていました。
「共和党」(右派)による “Netflixいじめ” のように映る場面も多くありました。
とはいえ、
トランプさんとの株(社債?)購入の件では、「民主党」からも突っ込まれています。

今回の証人のひとりである Netflixのテッド・サランドス氏 の政治的な立場は「中立」
としているようですから、支持政党がどちらかはさておき・・
Youtubeも含むストリーミング領域だけでなく、テレビも、映画も、ゲームも、スポーツも、
すべてが(人の時間を奪い合う)“競合” なんだとするNetflixの主張は、
私には、しごく真っ当な意見に映りました。

しかし、あくまでも
YouTubeは無料であり、「有料ストリーミング市場」における話 である、と言い切る上院議員側。

途中からは、反トラスト法の範囲を超えていたようにも思えました。
(この点は、先日のWSJの社説でも指摘していましたね)

最終的な決着には、2026年後半〜2027年初頭までかかる見込みですが、
いろいろ気になることも多いので、それまで “自身の理解を深めるために” 要約をしました。

動画:Netflix Warner Brothers merger antitrust hearing(LiveNOW from FOX)

<要約レポート>

〜 NetflixによるWBD買収に関する米上院公聴会 〜

エンターテインメントの未来と独占の境界線

 

1. 冒頭:歴史的転換点としての合併審議

ストリーミングの覇者 Netflix が、100年の歴史を誇る名門スタジオ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)を飲み込もうとするこの買収劇は、米国の反トラスト政策における「ルビコン川」を渡る行為(引き返せない決断である)に等しい。

1997年に物理的なDVDレンタルから始まったNetflixは、今や世界で3億2,500万人以上の加入者と10億人の視聴者を抱えるデジタル帝国へと膨張した。この「新興勢力」が、ハリウッドの象徴である「ハリー・ポッター」や「HBO」などの膨大な知的財産(IP)を掌握することは、単なる市場の拡大ではない。制作から配信までを一社が完結させる「文化の垂直統合」が、表現の多様性と公正な競争を根底から揺るがすリスクを孕んでいるのである。

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マイク・リー委員長

Mr. Mike Lee

(落ち着いた、しかし重みのある口調で)
「かつて『映画の夜』といえば映画館へ行くこと、あるいはブロックバスターでのレンタルを意味しました。Netflixはこの変遷の象徴ですが、いまやそのプレミアムプランは年間300ドルに達することもあります。今回の買収は、NetflixとHBO Maxという、加入者を直接争う二大巨頭を一つにする『水平的独占』の懸念を拭えません。これは消費者の選択肢を奪い、家計を圧迫することにならないでしょうか?」

コーリー・ブッカー筆頭委員

(情熱を湛えた表情で)
「我々はルーズベルト時代のトラスト解体以来の、前例のない企業集中に直面しています。これは単なるビジネスの数字の問題ではありません。芸術は、かつて隔離された劇場のバルコニーで映画を見た私の父に夢を与えたように、国家の道徳的想像力を形作るものです。この合併が『芸術の独占』を招き、多様な声を封じ込めることにならないか、厳しく精査する必要があります。」

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分析的視点のポイント: 委員たちが抱く懸念は、抽象的な独占論ではない。Netflixの年間300ドルのプレミアムプランという価格設定が、競合の消滅によってさらなる「価格支配力」の暴走を招くという具体的リスクだ。インフレに苦しむ一般家庭にとって、娯楽の選択肢が事実上一つの「帝国」に集約されることは、家計の弾力性を奪い、文化享受の権利を経済力で選別する事態を招きかねない。

 

2. 合併の正当性:NetflixとWBDが描く「補完関係」のロジック

厳しい追求に対し、両社の経営陣は「重複によるリストラ」ではなく「欠如の補完」という戦略的ロジックを展開 した。彼らが定義する真の競合は、もはや旧来のスタジオではなく、YouTube Apple といった、制作と流通を支配する巨大テック資本である。

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テッド・サランドス(Netflix共同CEO):

Mr. Ted Sarandos

(自信に満ちた口調で)
「私はかつて『アリゾナ・ビデオ・カセット・ウェスト』という店で働き、カウンター越しに「物語」の重要性を学びました。今回の提携は、重複を削り取る『ノアの箱舟』のような問題に陥る従来の合併とは根本的に異なります。NetflixにはないWBDの100年にわたるIPと、年間40億ドルの収益を上げる劇場配給の専門知識を統合するのです。実際、HBO Max加入者の80%は既にNetflixの加入者であり、この統合は利便性を高め、投資を継続するための防衛策なのです。」

ブルース・キャンベル(WBD最高収益責任者):

「メディア環境は劇的に変化しました。消費者は選択肢の洪水に疲れ、求めるコンテンツを見つけるのが困難になっています。Netflixの優れた技術プラットフォームと我々の制作能力の融合は、消費者の不満を解消する最良の道 です。我々は生き残るためではなく、成長のためにこのパートナーを選びました。」

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分析的視点のポイント:従来のメディア合併が、似たような資産を統合してコストを削減する「抽出型」であったのに対し、Netflixは自社が持たない「制作インフラ」と「劇場配給」を求めている。この「補完的統合」は、経営側から見れば、YouTube等のビッグテックに対抗するための「ノアの箱舟」かもしれない。しかし、その論理が「消費者のための価格低下」に繋がるのか、それとも単なる「防御的巨大化」に留まるのかが、今後の審査の焦点となる。

 

3. 市場独占と消費者利益:反トラスト法を巡る攻防

議論は、この統合が「価格支配力」と「垂直的排除」をどう加速させるかという法的核心へと踏み込んだ。

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マイク・リー委員長:

(鋭い視線でサランドス氏を見据えて)
「サランドス氏、あなたはYouTubeを競合だと言いますが、あちらはデフォルトで無料でログインも不要です。スタジオ制作の長編映画市場とは定義が異なります。もし市場を『SVOD(サブスクリプション型動画配信)』と定義すれば、合併後のシェアは30%を超え、『フィラデルフィア国立銀行事件(1963年)』の判例に照らせば、明らかに違法な独占とみなされます(アメリカ司法省/DOJが合併差し止め)。さらに、貴社のアルゴリズムによって自社コンテンツを優遇し、他社を排除する『垂直的排除(Vertical Foreclosure)』のリスクをどう説明しますか?」

テッド・サランドス:

YouTubeは現在、視聴時間の90%以上を占める最大のプラットフォーム であり、NFLやアカデミー賞の権利も持っています。画面上では、視聴者の時間を奪い合うゼロサムゲームが起きているのです。我々のシェアは、全体で見れば10% に過ぎません。」

テッド・クルーズ議員:

(冷徹に)
市場支配力が強まれば、価格は上がる。Netflixの北米加入者は既に8,600万人に達し、過去10年で料金は倍増しました。インフレ以上の値上げです。この合併がさらなる価格高騰の引き金にならないという保証はどこにもありません。」

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分析的視点のポイント:本件の成否を分けるのは「市場定義」である。経営側が主張する「YouTubeを含む全ビデオ市場」と、当局が重視する「SVOD市場」のどちらが採用されるかで、法的解釈は180度変わる。特に「垂直的排除」の概念は重要であり、Netflixの推薦アルゴリズムが競合作品を不可視化させる「ゲートキーパー」としての力を持つことへの懸念は、かつての通信や銀行の独占禁止訴訟に近い重みを持っている。

 

4. クリエイティブ労働市場への脅威:買い手独占(モノプソニー)の懸念

議論は消費者の財布から、制作現場の労働条件へと拡大した。巨大な「唯一の雇用主」の誕生は、クリエイターの交渉力を奪う。

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ジョシュ・ホーリー議員:

(書類を叩きながら)
「チームスター組合をはじめ、労働現場からは悲鳴が上がっています。サランドス氏、制作拠点を海外へ移転(オフショアリング)させ、米国内の雇用を奪っているのではないですか? また、脚本家たちが求めている『残余報酬(再放送手当)』を、複雑な『前払い方式』を理由に削減しようとしているのではないですか?」

ピーター・ウェルチ議員:
「WBDは前回の合併後、20億ドル相当のコンテンツを償却・キャンセルしました。司法省が『ペンギン・ランダムハウスによるサイモン・アンド・シュスターの買収』を阻止した際と同様、『モノプソニー(買い手独占)』が労働者の機会を奪うリスクを私は深く憂慮しています。」

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分析的視点のポイント:モノプソニーは、反トラスト法において「売り手独占」と同等の害悪とされる。二大雇用主の統合は、クリエイターにとっての「出口」を減らし、賃金の下方圧力を生む。サランドス氏はニュージャージー州の軍事基地跡地への10億ドルの投資を強調するが、それが「労働者の交渉力低下」という構造的問題を相殺できるかどうかが、労働組合からの厳しい視線の先に残っている。

 

5. 政治、イデオロギー、そして倫理的懸念

公聴会終盤、議論は現代の米国特有の政治的対立軸と、コーポレート・ガバナンスの倫理問題へと過熱した。

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エリック・シュミット議員:

(声を荒らげて)
Netflixの従業員の献金の99%が民主党向けだ。その偏った思想がコンテンツに反映されているのではないか。G指定(全年齢向け)の子供向けシリーズのうち41%に “LGBTQIA+" のテーマを盛り込み、クレオパトラの人種を入れ替える。これは娯楽を隠れ蓑にした『プロパガンダ機関』の独占ではないですか?」

コーリー・ブッカー筆頭委員:

Mr. Cory Booker

(衝撃的な事実を突きつけるように)
「トランプ大統領が貴社の株式を200万ドル購入した数日後に、サランドス氏、あなたが 大統領と非公開で1時間も会談 したのはなぜですか? 司法省が審査中の企業の株を大統領が取引し、そのCEOと密会 する。これは民主主義を癌のように蝕む『縁故資本主義』そのものではないですか?」

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分析的視点のポイント:巨大メディアの合併は、単なる経済的支配に留まらず、「言論の支配」へと直結する。シュミット氏が指摘した41%という具体的な数値に基づく偏向への懸念や、ブッカー氏が突きつけた政治家との不透明な関係は、この合併が「司法の独立性」や「中立な情報環境」を破壊するリスクを浮き彫りにした。反トラスト法は今、民主主義を守るための防壁としての機能を問われている。

 

6. 総括:エンターテインメント帝国の誕生か、競争の終焉か

数時間にわたる激論を経て、公聴会は一つの重大な結論を待つ状態となった。

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マイク・リー委員長:

(静かに総括して)
「市場は常に変化します。しかし、支配力を得た者が門を閉ざすことは許されません。劇場公開の45日間ウィンドウ(劇場公開から配信までの猶予期間)の維持、視聴データの透明性、労働者への公正な補償。これらが法的に保証されない限り、競争は死に絶えるでしょう。」

コーリー・ブッカー筆頭委員:

(最後の情熱的な演説)
「私の父は、隔離されたバルコニーで映画を見ながら、いつかこの国の指導者になる自分を夢見ました。芸術には、子供たちに不可能を可能と思わせる力がある。サランドスさん、もし私たちが詩を失い、ニュージャージーの詩人たちが沈黙を強いられ、芸術家を締め出すなら、アメリカの夢そのものが失われてしまう。我々は この国の文化の魂が、一握りの巨大企業の手に委ねられることを深く憂慮 しています。」

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分析的視点のポイント: 本件の命運(戦略的な結論)は、司法省が市場をどう「定義」するかにかかっている。もし「SVOD市場」に限定され、フィラデルフィア国立銀行の判例が適用されれば、30%超のシェアを持つこの合併は差し止められる可能性が高い。しかし、YouTubeを含めた広義の「ビデオ市場」と定義されれば、Netflixの主張は通るだろう。この決定は、今後数十年のアメリカ人が「どのような物語を、いくらで享受するか」を決定づける歴史的審判となる。

 

◇ ◇ ◇

 

今回の要約は、以上となります。
2時間以上にもおよぶ公聴会でしたので、もっと詳細にお知りになりたい方は
上記動画以外にも、資料、テキストなどが公開されています。そちらもご覧になってください。

参考までに、公聴会の公式ページもご紹介しておきます。
Senate Judiciary Committee
https://www.judiciary.senate.gov/committee-activity/hearings/examining-the-competitive-impact-of-the-proposed-netflix-warner-brothers-transaction

 

最後に、NetflixとWBDだけでなく
Paramaunt Skydance 側の主張もプライマリー・ソースを元に加えた概略図です。
こちらもご参考までに。

 

 

(楳田 良輝)